無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2002年12月19日(木) オタクの明るい未来/『リンダリンダ ラバーソール』(大槻ケンヂ)

 朝、またもやしげ起きてこれず、タクシーで職場へ。
 このとき乗ったタクシーの運ちゃんがなんかボケてて、道を教えても「はあ?」とよく聞こえない様子。「右です」「左です」と、いちいち二回ずつ言わないと伝わらないのだ。
 私はタクシーの運ちゃんの話を聞くのが好きなのだが、たまにこういうのに当たることもあって、そういうときはホントに往生するのである。なんたって「右」と言ってるのに左に曲がられるから、仕方なく「次の次の角を右ですよ」と早めに言うと、次の角で右に曲がられてしまったりするのである。
 朝っぱらから神経使わされたせいか、体調がよくない。
 喉がいがらっぽく、咳も出始めたので、また風邪にかかったかと暗い気分になる。葛根湯を飲んで、体を休め休めしながら仕事。


 職場で若い子たちとお喋りしていると、なぜか「オタクはいかにして恋愛するか」という話になる。というのも話相手は二人だったのだが、そいつら二人が二人して男も女も隠れオタクだったのであった。
 まずそのオタク野郎が、「鬱陶しいオタク」の典型だったと思っていただきたい。大声でしつこくて自分の趣味を押しつけるタイプで、女の子に嫌われて当然、というやつだ。
 「お前さあ、趣味は趣味で持ってていいけどさあ、もう少し、人の気持ち考えろよ。彼女いないだろ?」
 「いませんけど」
 「女の子好きになっても、自分の趣味押しつけるばかりで、女の子から好きになられるような自分になろうなんて考えてないだろ?」
 「……まあ」
 「好きな子いるか?」
 「いやその」
 「どうせお前のことだからさ、好きだけどなかなか言い出せなくてよ、なにかのきっかけで向こうからこっちを見てくれないかなあ、とか甘いこと考えててよ、それでいて偶然目があったらついソッポ向いたりしてよ、優しい思いやりのある言葉の一つも言えなくて、会話すればつまんないことで言い合いのケンカになったりしてさ、本心はいつまでも言えないままで、それ以上関係が進まないとか、そんなガキみたいな恋愛してるんだろ」
 「あの……えらく具体的なんスけど、見てたんすか?」
 「見てなくても当たってるだろう」
 「……当たってます」
 「自分の言いたいことだけ言って、相手の気持ち考えないからそうなるんだよ。相手はお前の大事な大事なフィギュアじゃなくて生身の人間なんだぞ? 自分の思い通りになるって心のどこかで思ってるからゴーマンな態度取って平気でいられるんだよ。そんなことしてたら30過ぎても結婚できなくて、段々焦ってきてちょっとかわいいオタクっぽい女の子がいたら、『この子しかいない!』とか思いこんでムリヤリからんでストーカーめいた行為働いちゃって「気持ち悪い」って嫌われてよ、トモダチからも絶交されて独りぼっちになっちゃうとか、そんな哀れなオタクになっちゃうんだぞ。シンジくんか。だいたいオタク男ってさ、同じ趣味持ってるからってオタク女を好きになるけどさ、オタク女はオタク男が鬱陶しいから嫌いだってことに気づいてないんだよな」
 「あ、あの、なんかスゴイ、イタイんスけど」
 「ある人の実話だ」
 「うひいいいいい!」
 後ろで女の子が笑っていたので、そちらにもネタを振る。
 「女のオタクだって、30過ぎまで独身で結婚できないなんてのいくらでもいるんだぞ。ずっと同人誌でヤオイマンガとか描いててよ、コミケでいいブース取ることだけに命かけててよ、○○サマ〜とか○○サマ〜とか人目も憚らず叫んでるもんだから、『あいつに近づくとヤバいぞ』って男の間でウワサ立てられてよ、宴会のあと『ウチまで送ってやるよ』ってエスコートされてよ、ホントにウチまで送られちゃうような女になっちまうんだよ」
 「あ、あの、ムネがイタイんですけど……」
 「実話だ」
 「ああああああ!」
 「オタクだからって人と違ってていいとか、常識なくていいとか、全部言い訳なんだよ、少しは自分のやってること、見直せよな」
 もちろん、私が自分を見直して見たことなんてないのは言うまでもない。
 「心に棚を作れ!」(by伊吹三郎(^o^))。
 あの、これ冗談の会話ですから、オタクのみなさん、本気で怒らないでね。


 帰りがまた、定期の見回りで遅くなる。
 しげはもう仕事に出かけているので、コンビニでチキンカレーとデミグラスソースオムライスを買って、これが晩飯。
 「ゴジラ名鑑」をいくつか買って、ようやく「メカゴジラ」をゲット。あとは「南海ゴジラ」だけだけれど、さてあと何個買えば手に入ることやら。


 夜、東京のこうたろう君から電話。
 「たまにはこちらから電話でも」とありがたいコトバ。日記に夫婦ゲンカの記述が多いので心配してくれているようだ。
 しげとは年齢差があるので、そのミゾを埋めるには軽いケンカ&たまに重いケンカは必要なのである。何しろしげに私の気持ちが伝わらないように、私もしげの考えてることが分らないのだから。
 仮にホントにリコンなんてことになれば、この日記でどれだけ私がしげに対して乱暴狼藉を働いたかの証拠になるだろうから、慰謝料は私から取り放題だろう。しげにとって不都合なことにはならないはずである。


 大槻ケンヂ『リンダリンダ ラバーソール いかす!バンドブーム天国』(メディアファクトリー・1260円)。
 いわゆる「バンドブーム」というものに私は全く引っかからなかった。
 タイトルにある「リンダリンダ」だって、サビの「リンダリンダー!」って絶叫してるのを何かの番組で見かけたことがあるだけだし、甲本ヒロトの名前も知らなかったのである。っつーか私にとっての甲本ヒロトって、『タイムボカン王道復古』でのセコビッチ・ファンの甲本浩人くんなんだけどな(誰が知ってるそんなもん)。「山本正之と組んでるアニソン歌手」というのが基本イメージなのだ。こんな覚え方されてたら、ブルーハーツファンは激怒するかもしれないが、甲本さんは山本さんを師匠と仰いでるんだから、失礼には当たるまい。ついでに言えば、甲本さんの弟が俳優で元東京サンシャインボーイズの甲本雅裕。弟さんがゲストで出演していた『笑っていいとも』を偶然見ていて知った。トモダチのトモダチの輪はなかなか面白い。
 いやまた話が逸れた。
 要するに私は「イカ天」も全く見てなくて、ロック系とは全く縁がなかったのだが、それがどうして大槻ケンヂにだけは興味を示したかと言うと、この人が江戸川乱歩のファンだったからである。
 何かの番組で、「乱歩の映像化にはもっと超豪華におカネをかけなければならない」と語ってたのを聞いて、得たりや応、と膝を叩いたのである。それから大槻さんが書いたSF小説なども何冊か買ったのだが、すぐに山の中に消えて未だに取り出せない。エッセイをいくつか読んだきりなので、大槻さんの本格的な「小説」(ひたすら自伝に近いが)を読むのはこれが始めてである。

 私は「筋肉少女帯」の曲も殆ど知らない。「高木ブー伝説」もサビの部分しか知らない。「ボヨヨンロック」も聞いたことがない。
 なのにこの小説が面白くて仕方なかったのは、これがまさしく「青春小説」だったからだろう。
 バンドブームとはいったいなんだったのか。全てのものが消費されつくしていく時代の流れの中では、それもまた流行歌の歴史の一つの徒花、と切って捨てることもできようが、その渦中にあったものたちは自らを表現すべく、蠢き、あがいていた。けれど、彼らが表現したかったものはいったい何だったのか。
 実はそんなものはない。彼らにあったのは何かを表現したいいという思いだけであり、それが奇矯なスタイル、奇矯なライブを作り出していった。大槻さんはそう喝破する。舞台でゲロを吐いた男達もいたが、それはなんの表現にもなっていないという意味でまさしく彼らの表現だった。
 無意味さが無為ではないことを示すのが青春小説の謂であるとすれば、まさしくこれは青春小説の名にふさわしい。この小説の切なさはそこから生まれてきている。
 どこに向かって行くのかわからぬまま、殆ど全てのバンドが嵐に飲みこまれ、遭難して行った。そして死んでいった者たち。バンドブームが終わり、イロモノになっていった池田貴族が最後にロックに帰って行く姿は切ない。その曲を私は聞いたこともないのに。
 大槻ケンヂは一応、生き残りはした。けれど失ったものもやはりあった。それはまさしく「青春」そのもの。
 浮気がバレて別れたかつての彼女、コマコとの再会でこの物語は終わる。
 多分、この最終章は大槻さんのフィクションではないかと思うが、コマコは別れた日に大槻さんとした約束を果たしてもらうために、再び大槻さんに会って言葉を伝えるのだ。
 「ラバーソールを買って」
 もう今は誰もそんな厚底靴を履く人はいないだろう。昔のファッションがとてつもなく恥ずかしいのはそれがバカの証明だからだが、コマコは大槻さんに「神様がオーケンにバカやっていいって言ってくれてんだよ」と語る。
 バカの思い出を抱いてコマコは去っていく。けれど、背中を向け、去って行くコマコの姿を大槻さんは描写しない。大槻さんと二度と会うことはないだろうその後ろ姿を、私は勝手に想像する。
 そのとき、コマコは自分の靴をラバーソールに履きかえただろうか。
 読み終わった私がちょっと気になったのはそのことだった。

2001年12月19日(水) 厳密な計算/『透明な季節』(梶龍雄)/『コータローまかりとおる!L』2巻(蛭田達也)ほか
2000年12月19日(火) 多分、ココロが病んでいるのです/『名探偵コナン』30巻(青山剛昌)



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