無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2001年10月21日(日) もう6年/『背後霊24時!』3巻(がぁさん)ほか

 オタアミ当日まであと34日! 34日しかないのだ!

 風邪、最悪の状態。
 二、三日前、熱が高かったときがピークだと思ってたんだがなあ。朝目覚めたらもう、熱はないのに眩暈はするわ、吐き気はするわで、立ってられなくなっちまった。
 体が重くてたまらないので、風呂にカラダを投げこんで、おええ、げほがほ、げろげろ、ううっぷ、ぶふぁああ、げげ、ぼふぁ、ぐぅぅ、と、咳と吐瀉とをいつまでも交互に繰り返し、際限がない。
 排水溝に昨日食ったエノキダケのテンプラが消化されないまま流れて行くのを見てると、なんだか私の人生もこんなエノキみたいな人生だったよなあ(どんな人生だ)、となぜか走馬灯が目の前をよぎる。
 気がついたら熱もぶり返し。
 こんなことなら、昨日、熱冷ましの薬も貰っとくのだった。
 きついよう、苦しいよう、助けてよう。
 もちろん、しげはグーグー朝から高イビキである。


 本当は、今日は朝早くから父のマンションで母の七回忌の準備をする予定だったのだ。しかし、この体調では、到底カラダが持たない。
 仕方なく父に電話する。
 「ごめん、法事だけ出たらすぐ帰るから」
 しげは8時を過ぎてもまだ寝ている。
 せめてしげ一人だけでも父の手伝いに行ってくれりゃいいんだが、根っから鬼畜で外道なやつなので、そんなことを期待するのはムリな話だ。
 ギリギリまで横になって、薬を飲んで、タクシーを呼ぶ。
 しげを叩き起こして、5分で着替えさせる。着慣れないスーツなんぞを着て、化粧なんかしているので、しげ自身、どうも落ちつかない様子であるが、私なんか全くの普段着である。
 儀式的なことって、本気でキライなのだ。

 渋滞に引っかかることもなく、タクシーは9時45分に父のマンションに到着。
 でも、坊さんはもう来ていて読経を始めていた。
 本当は、10時からの予定だったのだ。実際、親戚でまだ来ていないものが何人かいる。けれど、父はせっかちなので、客が来るまで待つということをしないのである。……それも相当失礼だと思うんだがなあ。先日の電話でも「俺は俺のやりたいようにやる」と言ってたが、法事はそういうもんではないのではないか。まあ、周囲の雑音を気にしない親父らしくって、そういうの、イヤではないけど。
 父、おじやおばたち、姉や兄など、来ているのは十人ほど。ともかくやたらと知り合いの多かった母の葬式には、百人からの弔問客があったが、七回忌ともなれば集まってくるのは身内のものだけなので、せいぜいこの程度だろう。
 母も淋しいかもしれんが、人間なんて死ねばそれまでってことだ。

 足を悪くしている父は、一人外れて椅子に座っている。喪主が仏壇の前にいないのだから儀式的にはシマリのない話であるが、儀式なんて下らないと思ってる私には別に含むところは全くない。
 でも、よく見ると、まん前の座布団だけが主のないままポツンと空いている。
 あちゃ、あれ、私の席か(・・;)。
 おばから目線で「ど真ん中に座れ」と合図されるが、この気分が悪いってのにそんな線香の匂いがマトモに当たるような、しかもどこにも逃げることが出来ないようなところに座れるものか。
 おばの誘いを無視してワキに座る。しげは末席に座った。
 ケムリから離れていても、焼香の時にはいやでも香の側に行かねばならない。なんだかなあ、死んでも私を苦しめるかお袋。

 葬式のときに私が選んだ写真があまりいいものではなかったので、遺影の中の母はちょっと疲れたような、泣きかけてるような顔をしている。
 死ぬまで仕事のし過ぎだったからなあ。あれだけ働いてた人間がポックリ逝くなんて、当時はみんな信じられないと言っていた。
 そうだよなあ、予感してたのは私くらいのものだった。
 父にそう言っても無視されたけど、そんなこと父は記憶の彼方に消し去ってんだろうな。父はもしかしたら、未だに母の死を認めたくないのかも知れない。
 母もまた、祖母が死んだ時、「まだばあちゃんがその辺にいるような気がしてね」と言っていたが、母は祖母の遺骨も拾おうとしなかったから、そんな風に感じるのは人間のサガかもしれない。
 私も母の写真を見ながら、母が死んだということがリアルに認識できない自分がそこにいることを発見してしまう。今でも母がひょっこりと店に顔を出してきそうに錯覚することがあるのだ。
 夢の中で母に会ったあとなど、目覚めると、現実の方が非現実的に感じてしまったりする。
 結構、傷ついているのかな、私は。
 だからと言って私は妄想に逃げることはしないが、死後の世界を信じたがるヒトを一概に笑い飛ばせないのは、ヒトから感傷は切り離せないという事実に起因していることなのだろう。
 うん、何か話をするわけじゃないけど、もう一度会えるなら会いたいな、お袋に。

 たいがい吐き気で胃液が逆流しかかってるってのに、何となく、坊さんがいつもより念入りに読経してくれてる気がするなあ。
 焼香の匂いで気分はどんどん悪くなる。咳を周囲を憚ることなく連発していたら、姉が見かねてお茶をくれた。でも喉を湿したからといって、病気が治まるものでもない。
 結局、30分ほどしか時間は経っていなかったのだが、半日分のエネルギーを消耗したような気になる。
 みんなはそのあと温泉に繰り出すようだが、とてもそこまで付き合う元気はない。しげだけ残して、一足先に帰ることにしてタクシーを呼ぶ。
 親戚づきあいが苦手なしげであるが、温泉なら少しは楽しめるであろう。

 諍いがあって縁を切っていた親戚も、久しぶりに顔を出している。帰りしなに少しだけ会話。
 「最近ウチの息子が不登校でね」
 などと言うので、
 「それがフツーですよ。学校にマジメに行こうってヤツの方が狂ってるんです」などと話す。こうして喋ってると、諍いがあったこと自体ウソのようだ。


 帰宅して、『加藤夏季のファミナビ』11月号をチラッと見る。
 来月は時代劇特集ということだが、テレビスペシャルばかりで往年の名優のものは一本もない。『太陽にほえろ!』ジーパン編も今更だし、来月はこれといった目玉がない感じだ。
 最近、加藤夏季は殺陣を習ってるそうで、型を披露していたが、何か時代ものに出る予定でもあるのだろうか。プレゼントコーナーで『陰陽師』の宣伝もしていたので、パート2が制作されるなら、ホントに出演することがあるかもしれない。
 つかれているので、そのまま横になって夕方まで寝る。

 夕方、しげ、温泉から帰ってくる。
 「露天風呂で面白かったよ! アンタも来ればよかったのに」
 だから具合が悪くて行けないって言ってるのに。
 「親戚の人と一緒は楽しくないけど」
 それは私も同じだ。
 するってえと、肝心な時に体調崩したのは、もしかしてお袋の親切か?

 しげ、帰って来るなり、また電話でやりとりして遊びに出かける。
 なんか穂稀嬢たちと打ち合わせもあるようだが、こっちの具合が悪いのをよくぞここまで無視してくれるものだ。そのおかげで結局私は自分で動いてどんどんカラダを壊していってるのだ。
 せめて飯くらい作ってってくれと頼むが、聞いちゃいない。私が買ってきたインスタントナベを火にかけてくれるよう頼むが、それも途中でホッポリだして出て行ってしまった。
 「何か飲み物くらい買って来てくれえ」
 泣いて頼んだがこれも無視された。
 ……結局、具合の悪いのを押して買い物に行く。咳はますます酷くなる。
 今度しげが具合が悪くなることがあっても絶対看病なんかしてやらないからみてろ、クソ(と言いつつ毎回面倒見てやってんだよな、私は)。


 アニメ『サイボーグ009』第2話『脱出』。
 オープニングは第1話の使いまわしが殆ど、本編はところどころ動いてはいるものの、第1話のクォリティの半分のレベルにも達していない。
 制作が間に合っていないっての、ホントだったんだなあ。
 あの『エヴァ』ですらヘタレ始めたのは中盤以降だったってのに、これは尋常な事態ではない。果たして1年、続くのだろうか。


 アニメ『ワンピース』、ついに登場、トニートニー・チョッパー。
 声はなんとピカチュウの大谷育江さんだ。しかも変身後まで。
 てっきり男声を想像していたのだが、この選択は結構ウマイのではないか。
 ウソップもそうだが、グループにはコメディリリーフの役を担う人物がどうしても必要になる。けれど、そういう人物は得てしてドラマ展開上、ドジを踏んだりして「足手まとい」になりかねない。
 そうなると、受け手はそのコメディ演技に笑ってばかりもいられなくなるのだ。まして、アニメのウソップの声は山口勝平。……こりゃ、憎んでくれと言わんばかりのキャスティングじゃないの。
 原作の方でも、ウソップの扱いに作者が苦労しているのがはっきり見て取れる。チョッパーはそのウソップと組むことが多いのだから、二重の足手まといになっちゃ困るのだ。
 大谷さんの声は、山口勝平とのコントラストがよく出ていて、出色。気になるのは高音部の声の裏返り方がどうも林原めぐみっぽいところなんだけど、それが今の若手声優たちのスタンダードになりつつあるのだろうか。
 あ、ジャンプアニメなら当然の出番、Dr.くれは(ドクトリーヌ)は、野沢雅子さん。いや、ハマってます。……花の130代って、これは野沢さんへの皮肉なんだろうか(^_^;)。


 新番組『笑う犬の楽園』。
 間の取り方が致命的に悪い(ウンナンの番組だけどダウンタウンの悪影響が顕著)欠点はあるものの、コントをともかく中心に、という姿勢は好ましい。
 ただ、やはりネリが足りないんだよなあ。
 特別警戒中のラブホテル、男女がシケこもうとするのだが、受付は「ご夫婦ですか? 身元がハッキリしないとお泊めできません」と、つれない態度。
 男が「結婚なんてまだ……」なんて言い出すものだから、女のほうからも「結婚する気ないの?」と突っ込まれる始末。最後には男が先月浮気してたことまでバレて、結局二人はその場で喧嘩別れ。
 ……うーん、設定は面白いんだが、もう一つ二つ、畳かけるようなギャグがあってもよかったんじゃないかなあ。浮気してたんだったら、その証拠ビデオが盗撮されてたとか。それともそういうギャグは過激過ぎてダメなのかなあ。

 短いギャグだけど、次のやつが結構気に入った。

 タトゥー屋に飛び込んできた男、いきなり服を脱いでハラを見せて、
 「ピョン吉彫って!」
 「しゃべらないよ」

 
 福岡競艇のCMがまた変わった。
 竹中直人が毎回出演して、シリアスからギャグまで、ほのぼのからナンセンスまでと幅広いアイデアで(多分竹中自身もアイデア協力してると思われる)面白がらせてくれてるこのシリーズ、ここしばらくは「居酒屋編」で、竹中が主人に扮しているものが続いている。
 ラジオを聞きながら2−4にするか2−6にするか迷ってる竹中、カウンターのちょっとセクシーな美人に尋ねる。
 「高校2年生の時、何組でした?」
 「……B組」
 竹中、絶句。
 と、今回はちょっとドジ編でした。


 マンガ、がぁさん『背後霊24時!』3巻(完結/秋田書店・540円)。
 ううむ、3巻でいきなりライバル登場でしかもあっという間に完結ってのは構成としてはちょっと破綻してる気はするが、まあ、その分エッチシーンは増えてるし、まあいっか。
 いきなり天国の門が開かれ、みちよちゃんの背後霊でいられなくなったまさる君。奈緒ちゃんが心配で今度は浮遊霊になって戻ってきたけれど、これで天国行きはご破算、小板橋さんとみちよちゃんの仲を妨害するさくらちゃんとその背後霊の姫君に対抗する力は全くない。果たしてみんな幸せになれるのかっ!?
 って、がぁさんのマンガの結末がハッピーエンドにならないワケないんだけど。予想通りと言えば予想通りだけれど、いかにもがぁさんらしくていのだ。
 がぁさんのマンガって、エロマンガなんだけれど、SEX=純愛って図式を絶対に崩してない。「エロにテーマはいらない、エロはエロでいいのだ」というのは一面の真実ではあるが、そう言いきるのも作品世界を狭めるだけだ(だから矢野健太郎のエロはエロに徹してもホラーにしてもつまらない)。
 エッチはあっても安心感があるってのは、絵柄の柔らかさだけでなく、物語が決してアンハッピーエンドにはならないだろうという期待にあるのではないか。SEXはがあさんのマンガでは「努力の道」でもあり「健気さ」のシンボルでもあるのだ。
 なんだか、みんなで頑張ってSEXしようぜ! と謳いあげたくなっちゃうのである。


 マンガ、浦沢直樹『モンスター』17巻(小学館・530円)。
 完結まであと1巻。
 ラストがマインドコントロールによる殺戮とは、これはちょっとした恐怖だ。ヨハンの秘密もほぼ語り終え、フランツ・ボナパルタもその姿を現し、否が応にも盛りあがる。
 けれど、このネタって、ある意味ミステリーのタブーではあるんだよなあ。……だって、リアリティを持たせれば持たせるほど、現実に模倣犯が生まれる危険があるから。
 ちょっとしたささやき一つで、人を簡単に殺せるなら、殺してみたい、そう思ってるやつにネタを与えちゃうのはねえ。
 でも、それくらいのものでないと、物語がうまく締まらんし、さて、どうオチをつけるんだろうか。


 マンガ、夏目義徳『トガリ』5巻(小学館・410円)。
 前巻で大量の「咎」をばら撒いた瀬奈に呼応して、集合した「イクス』の面々。敵の組織が5巻を過ぎて登場というのもペースとしては遅い気がするが、ということは長期連載を想定しているということか。
 まあ、108つの「咎」を集めるってところからして、大風呂敷広げちゃってるわけだけど、それに見合うだけのドラマ性は持ってると思うんである。サンデー本誌では人気が微妙にあるようなないようなって感じだけれど、ともかく5巻まで来たのだ。見返しで作者が弱音吐いてるのが気になるけど頑張って連載を続けてほしいものである。

2000年10月21日(土) 仔牛のテールは美味かった。♪ドナドナ/『火星人刑事』4巻(安永航一郎)



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