無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2001年09月03日(月) 変わるわよ♪ ……何がだよ/アニメ『こみっくパーティー』第1話ほか

 芥川賞作家、畑山博氏、肝不全で死去。66歳。
 小説家としての畑山氏の作品は全く読んでいない。でも、その著作や言動には一時期やたらと触れた。
 畑山氏が宮澤賢治の研究家としても著名だったからである。
 1996年、宮澤賢治の生誕100年記念番組をNHKBSが放送したときには、総合ナビゲーターを畑山氏が務めていた。
 語り口は実に朴訥としていて起伏に乏しく、お世辞にも見ていて興味を引かれるものとは言えなかった。けれど、たいていの宮澤賢治研究家が、宮澤作品の映像化に否定的だったにもかかわらず(天沢退二郎などは「失敗作」の一言で切り捨てている)、畑山氏は高畑勲作品の『セロ弾きのゴーシュ』を高く評価しているのが印象に残った。

 一時期の宮澤賢治熱が去ったかのように、ここ数年、宮澤作品の映像化や特番はほとんど見当たらなくなっている。代わりに脚光を浴びているのが金子みすゞという印象がある。
 なんだか世間が勝手に盛り上がって宮澤賢治を持ち上げ、飽きた途端に見捨てていったみたいで、長年のファンとしてはどうにも気分がよくない。『風の又三郎』にしろ『銀河鉄道の夜』にしろ、まだまだ評価が定まっているとは言いがたい。新たな解釈で映像化を試みてもいいのではないいか。
 何より、『銀河』のほうは、未だに一度も映像化されたことのない、通称『ブルカニロ博士編』と呼ばれる初稿形もあるのだ。紛失した「天気輪の柱」の章を補完してみるという手もある。アプローチの仕方はまだまだ残っているだろう。

 カムパネルラは決して自己犠牲に殉じていたわけではない、というのが私の昔からの意見である。ジョバンニをあの銀河鉄道に乗せたのが誰だったかを考えれば、カンパネルラの利己心が見えては来ないか。宮澤賢治を『雨ニモマケズ』の詩一つに集約して、自己犠牲、滅私奉公の象徴のように扱う観念主義、精神主義の徒は未だに多い。しかし賢治は、大いなる迷いの人であったし、自己の煩悩を制御できない人であったし、人を思うことを考えながら人から逃げていた人でもあった。
 賢治が生きていた当時の花巻の人々の評価は「変人」なのである。変人の評価が100年や200年で固まるはずもないことだ。

 畑山さんもなんとなく変人っぽい人だった。
 今年は賢治の弟、宮澤清六氏も死去しているが、この人もどこか超然とした雰囲気の人だったようだ。
 ほんの少しだけ昔の人だった親しい人々が、遥かに遠い昔の人になっていく。仕方のないことだが、寂しい。
 

 今日から本格的に仕事を始める。
 私が入院する以前からご病気でお休みしている同僚も、今月から復帰されると聞いていたのに、なぜか出勤していない。
 「○○さん、どうしたんですか?」
 と他の同僚に聞くと、
 「来られないのよ」
 との返事。
 「まだ、ご病気が治られてないんですか?」
 と聞いても、ハッキリした返事がなく、歯切れが悪い。
 「……いつごろ戻られるんですか?」
 「それが……わからないの」
 「……復帰されるご意志はあるんですよね?」
 「……実は、こないだ来られたのよね。みんなで拍手して迎えたんだけれど……そこでドラマがあってねえ」
 「ドラマ? 何ですか?」
 「……聞かないほうがいいわよ」
 こ、ここまで引いて、何も説明してくれないとは(・・;)。
 いったい何があったのだろう。やはり入院なんてしてると世の中の動きから取り残されちゃうのだなあ。


 テレビで漫然と『名探偵コナン』を見ていると、女児誘拐の田中邦彦容疑者をさいたま市で逮捕のテロップが流れる。
 ……臨時ニュースで流さねばならんほどのことかと、そのこと自体にビックリ。どうもこの事件、ワイドショーを含めたマスコミが、どう取り扱ったらいいのか苦慮しているような印象があるのだなあ。
 幼い子供を誘拐しているわけだから、これはもう、立派な凶悪犯罪、ということで怒りたいところなのだろうが、監禁こそしたものの、女の子は無事解放されていて、イタズラされた形跡もない。
 攫ったはいいものの、扱いかねて放り出した、というのが真相に近いところだろうが、そういう犯人の杜撰な計画、アタマの悪さというのが前面に出ていて、「凶悪犯」「知能犯」のイメージからはほど遠くなっているのだ。
 つまり、「情けない」「アホな」犯人像っていう印象が強いせいで、マスコミは怒りの矛先を持って行きにくくなってるのじゃなかろうか。
 先に捕まった藤田容疑者同様、こいつも美少女アニメオタクなんだろうが、そのことをやたら取り上げて「アニメと現実の区別がつかなくなって」という定番かつ陳腐な言質で批評した気になってるバカコメンテーターが続出してるのも、他にこいつらを責めたてる要因を見つけられないから、しかたなくやってることなんじゃないかな。
 トチ狂ったニュースを毎日見せられるのも飽き飽きなので、犯人が捕まってくれてよかったよかった。これで続報もそのうち消えるでしょ。
 ……それにしても、逮捕時には作業員をやってたっていう話だけど、履歴書も身分証明もなくて身元保証人もいないってのに、その会社もよく雇ったよな。
 過去は一切不問ってのも偏見のないコトで素晴らしいのかもしれないけれど、最低限でも身分証明になる何かを提示させるくらいのことはしておかないといかんと思うがね。
 

 晩飯は餃子を焼いて食べる。
 しげにも半分分けてやるが、「どうしてくれるの?」と、とまどっている。
 自分のメシは自分で作れ、と言っているから、まさか何か作ってもらえるとは思ってなかったらしい。
 気まぐれであるが、考えてみたら、私が気まぐれでしげに優しくすることはあっても、しげが私に気まぐれで優しくすることはないのだ。
 自分でも、どうしてこんなやつと一緒に暮らせているのかと確かに疑問に思うことはある。どこかに功利的な判断があるんじゃないかなあ、とは思うが、世間体を気にしてるわけでもないしなあ。
 実はバカが好きなんだとは思いたくないが、ちょっとはあるかもしれない。
 いや、私はだいたいしげのことを本気でバカだと思っているのだろうか?
 この日記でも、しげのことを百万遍、バカだバカだと書いているのだが、なぜそこまで書くのかと言われれば、確かに自分でもしげのことを一生懸命バカだと思いこもうとしているフシがある。
 では本当はしげはバカではないのかと言うと、やっぱりどう考えてもバカなのである。

 先日、しげから突然、「人って変わるの?」と聞かれた。
 「変わるさ」と即答する。当たり前のことをなぜいきなり聞くかな、と思って「なんで?」と聞き返す。
 しげは直接私の質問には答えず、「性格って、変えようと思って変えられるの?」と、質問し返してくる。
 ああ、私がしょっちゅうしげに「バカを治せ。その忘れっぽい性格を変えろ」と言うものだから、そんなことが可能なのか、と考えていたようだ。
 「変えられるさ」
 「アンタも変えた?」
 「変えたよ。環境が変わるたびに、性格何度も変えてきたよ」
 「じゃあ、自然に性格が変わるってことはないの?」
 「そりゃあるだろう。トシを取って、体が動かなくなりゃ、心が穏やかになることもあるし」
 「……確かに、アンタ、変わったね」
 「そうか?」
 「昔に比べて優しくなった。昔ほど怖くないし」
 なんとなく苦笑いを浮かべただけで、それ以上返事はしなかった。
 ……なるほど、自分でもトシを取ったのだな、と思う。
 以前ならここで「人をトシ寄り扱いするな!」と怒ってただろうから。
 でも私はともかく、しげが更に穏やかになったら、バカが加速するだけなんじゃないのか。

 なんだかよくわからなくなってきたので、この辺でやめるが、誰か、なんであんなやつと十年も夫婦でいられているのか、説明してください。 


 バカからバカにされると腹が立つと言うが、しげはしげのクセして私を時々バカにする。でも別に腹は立たない。
 あそこまでバカだとかえって「よしよし、バカがまた何か言ってるね」で済ましちゃうからだろう。
 CSキッズステーション『SAMURAI GIRL リアルパウトハイスクール』第6話を録画していると、しげが「これ、どこが面白いの?」と、いかにもバカにしたようなことを言う。
 実は入院中、録画を頼んでいたのだが、2話以降をまだ見返していない。だから面白いかどうかなんてのはまだよく分らないんだが、とりあえずGONZOで後藤隆幸なんで録ってるのだ。面白さはともかくアニメ技術だけはいいもんな、GONZO。
 作品にはいろんな見方があるので、そういう理由で見ることもあるのだが、しげにはそういうのが気に入らないようだ。
 ……気に入らないって、そりゃお前の勝手じゃん。ダン・エイクロイド目当てだけで『パールハーバー』見に行ったやつにエラそうな批判される筋合いはないのである。

 
 夜8時、しげが仕事に行く段になって、「3時まで起きてる?」と聞いてくる。
 「俺に起きて待っててほしいの?」と聞き返すと、「いいや」と答える。
 なら、最初から聞く必要はないのに、どうしてこういう見え透いたウソをつくかなあ。
 でも当然、私は先に寝て待っててなんかやらないのである。これは意地悪でもなんでもなくて、明日仕事があるからだ。それを知ってて「起きてるか?」なんて聞いてくるしげの方がよっぽど性格が悪い。
 だから、その性格を直せって言ってるんだってば。
 

 CSキッズステーションで『こみっくパーティ』第1話を見る。
 一部で話題になってたので、見てみる気になったのだが、要するに「ケイエスエス版『オタクのビデオ』」というわけなんだね。
 同人誌だのコミケだのになんの興味もなかった主人公が、筋金入りのオタクな友人に引きずられて、同人誌の星を目指すという……書いててまるでアホみたいだが、そういう設定なんだからしかたがない。
 笑えるような、ちとイタイような(^_^;)。
 でも、オタクなら誰しも一度は辿った道である。
 いきなりオープニングが『TO HEART』で始まったので、一瞬、「なんでマルチが?」なんて、放送を間違えたのかと思っていたら、主人公の夢なのだった。一見ベタベタな展開だが、さにあらず。この夢、後でわかるのだが、主人公を同人誌漬けにするためにオタクな友人がベッドに『TO HEART』の録音テープを仕込んで「睡眠学習」させていたのである。
 ……こういう友人を持ちたくはないなあ。
 しかし、アホなキャラクターを配置してはいても、「同人誌」を極めて肯定的かつ偏見のない視点で描いているのは、特筆すべきことではないか。
 意外なくらいにマジメで、これ、本当に「コミケの星」ってタイトルに変えたとしても違和感がない。これはアニメによる『同人誌入門』なのである。昔は手塚治虫、石森章太郎といった人達が『マンガ家入門』って本を書いてくれてたけど、考えてみたら、今は、同人誌を作りたいと思ってる人たちに対して、技術的なノウハウだけでなく、心構えのようなものまで教えてくれる解説書ってものがない。マンガ家への入門書自体見かけなくなった(『コミッカーズ』は小学生には高度過ぎるし、技術に偏り過ぎている)。
 これ、意外と拾いものではないかな。


 『コミック伝説マガジン』No.2(実業之日本社・380円)。
 おお、ついに『サイボーグ009』が三度目のテレビアニメ化。
 10月14日からって、もうすぐじゃん! そこまで制作が進んでるとは思わなかったがなあ。報告はあっても、声優やスタッフの紹介がまるでないのが気になるなあ。
 それに合わせる形で、今号のメイン作品も石森章太郎『009』。前回、手塚プロに新作『鉄腕アトム』を描かせるような暴挙はせず、『ああ、クビクロ』の再録。まあ、賢明な判断だろう。
 前回の『アトム』、非難轟々だったらしく、手塚プロとの協議の末、新作は作らないことにしたそうな。……手塚プロも根性がないなあ。非難が来ることなんて、当然予測がついただろうに。この程度のことでやめるくらいなら、最初からやらなきゃいいのである。
 たとえ批判されてもそれを跳ね除けられるくらいの傑作を書きゃいいだけの話なのに、それができないということは、もはや手塚プロに人材がいないということに他ならない。
 まだ、『大長編ドラえもん』を書きつづけてる藤子プロのほうがマシなのかな。
 『アトム』の代わりに再録されたのが『落盤』。全集でも、『手塚治虫ミステリー傑作集』でも読んだことがあるので、正直「またか」と思ったのだが、なんと、ラストがこれまで収録されていたものと微妙に違うのである。
 しかも、今回のもののほうが断然いい(現物に当たってみてね)。
 手塚治虫自身によって単行本用に書きなおされたものが今回の収録版だったわけだが、なぜ、全集のときには改稿版を入れなかったのかな。


 マンガ、石森章太郎作・成井紀郎画『決死戦7人ライダー』(角川書店・2000円)。
 かつて『テレビマガジン』に連載されていた『仮面ライダーストロンガー』を全編収録したもの。つまりは第一期『仮面ライダー』シリーズの最終作ということになる。
 石森自身による原作がない以上、コミカライズとはいえ、これがもっとも正当な『原作』。でも初期のあだち充によく似た柔らかい線のキャラは、タックルはなかなか色っぽくてイイけれども、ストロンガーにはちょっとナンパな印象がくっついているのであった。
 解説は一生懸命本作をヨイショしてるが、やっぱり子供向けの月刊誌では、深みのあるドラマ展開はできていない。
 テレビ版の最終回も、実はショッカー以来の今までの敵は、みな同一人物の宇宙人であったという、いい加減なオチであった。
 『ウルトラマン』世代が『仮面ライダー』にイマイチはまれなかったのは(でもライダースナック買ってたけど)、やっぱり、そういう脚本のチャチさにもあったんだと思う。


 マンガ、吉原由起『ダーリンは生モノにつき』8巻(小学館・410円)。
 やっと完結してくれたか。
 いや、つまんないんじゃなくて面白くはあるんだけど、これ、批評のしようがないのだ。
 と言うか、批評しようと思えば引用するしかないんだけどさあ。引用するのがめっちゃ恥ずかしいマンガなんよ、これ。
 引用しなくたって、「ヤリたがりの若妻が夫を押し倒すマンガ」、と言えばこと足りるんだけどね。……だからどのギャグも全てナニとかアレ関係の話ばかりなわけよ。
 ああ、でも頼むから、フェラ○オした後、陰○とザー○ンまみれのクチビルでキスを迫るような絵を描かんでくれ。オトコがどれだけそーゆーのを気色悪がるかわかるか。
 ラストは子作りの話か。この話題が最後の最後に出てくるあたり、これまでの連載が「ただヤル」だけの話であったことを如実に証明しているであろう。


 マンガ、田村吉康短編集『筆神』(集英社・410円)。
 表紙絵だけを見て買った完璧な衝動買い。
 ジャンプの読み切りマンガだから、どれもありきたりなんだけれど、表題作の『筆神』だけはまあ面白い。
 設定は現代の『陰陽師』なんだよなあ。でも「書」の精霊、「トヨフデヒメ」の力を借りて悪霊退治、というところがちょっとした工夫で面白い。
 ……もっとも、この「書が悪霊を封じる」という発想も、オリジナルってわけじゃない感じで、中国の古典あたりにルーツを求められそうだけど。

2000年09月03日(日) 警察も役所/『ら抜きの殺意』(永井愛)ほか



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