無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2001年08月24日(金) 祝! 退院!/映画『RED SHADOW 赤影』

 いよいよ退院の日である。
 なんとなくソワソワして、夕べから寝つかれなかった。
 朝の散歩も今日が最後かと思うと、ちと寂しいか。いや、散歩自体止めるわけじゃなくて、帰宅しても続けますけどね。

 持って帰る荷物を取りまとめて、新聞などはあとで看護婦さんに捨ててもらうように頼む。受付で入院費を計算してもらったところ、予想はしてたがフタケタを越してしまっていた。
 保険に入っててなおこの値段だから、マトモに入院費払ってたら、ひと月の給料が全て吹っ飛ぶことになる。
 こりゃ保険屋さんに是が非でもオカネ入れてもらわなけりゃなあ、ということで、診断書も出たことであるし、ニッセイに電話連絡を入れる。
 午後には病院まで来てくれる由、ありがたい。面倒な用事はパッと片付けちゃわないとな。

 朝食はナスの含め煮にゆで卵、味噌汁。卵は好きだけれど、一回くらいは目玉焼きを食べたかったなあ、としみじみ思う。スクランブルエッグやサニーサイドアップは油を使うからダメなんだろうなあ。
 食堂から部屋に戻ってくると、職場から電話があったとの連絡。
 折り返し電話を職場に入れると、同僚が「今からお見舞いに行きます。何時に退院されるんですか?」とのこと。今までなんの音沙汰もなく、よりにもよって退院ギリギリのこの日に来るってのはさて、どういう意図なんだろうねえ。
 こりゃ、ちゃんと今日退院するのかどうか確認しようってんだな、退院した途端に職場に呼び出されでもしたらたまらんなあ、と思い、「6時ごろです。月曜か火曜には職場にちょっと顔出そうと思いますが」と機先を制する。
 「ほんじゃ、6時ごろに行きます」
 で、電話はガチャッ(←切れた音ね)。
 ……しまった、失敗した。ホントに6時に来るんだったら、それまで退院しないで待ってなきゃならないじゃんか。5時には退院するつもりだったのに。私のバカバカバカ。


 一昨日、一時帰宅して、薬剤師さんの講義を聞き損なっていたので、午前中はずっと補習。
 学生時代も補習なんて受けたことないのに、なんだか新鮮な経験だ。いや、別に成績がよかったってことじゃなくて、単に出席点で赤点を損失補填してただけですけど(^_^;)。
 説明によると、新しいクスリ、やたらと副作用があるそうで、それでホントに薬なんかい、とちょっと突っ込みたくなる。
 「食欲がない、むかつき、吐く、下痢、消化不良、便秘、お腹が痛い、お腹が張る、全身がだるい、頭痛、眠気、肝機能異常、風邪を引きやすい、出血しやすい、血が止まりにくい」……病気にする薬じゃねーかよ。とゆーか、日頃からこういう症状、しょっちゅう出てるんですけど。
 「いえ、こういう症状がひどくなったってときに、医師に相談していただきたいと言うことで」
 そりゃ相談するよ。
 入院中、この薬剤師さんとは一番気が合ってしまって、気がついたら相手の家族構成だの、私とトシは近いがまだ独身だの、休日はどこで買い物するだの、好きな食べ物は何だの、最近太りぎみで困ってることだの、聞き出してしまっているのである。
 私がもう10歳若くて独身だったら、あと住所と電話番号も聞き出していたことであろう。
 いやもう、ナンパはしませんよ。私、妻一筋だし。
 ホントです、信じてね(誰に向かって言ってんだ)。


 6時に来ると言ってた同僚、昼飯の最中に来る(^_^;)。
 まあ、居残らずにすんで助かったかな。
 同僚たちのお見舞金を持って来て頂いて、それはありがたかったのだが、職場に復帰してからだっていいのになあ、と思う。
 やっぱり、こちらの動向を確認するためだろう、と思って、「いやあ、マジメに勤め上げましたよ。間食もしてないし、運動も欠かさずやってましたから」と誘導したら、同僚、つい「上司に伝えときます」だと。
 わはは、案の定スパイか。
 なんだかなあ、こういう、相手のことを気遣ってるフリしてて実は全くその気がないってのが見えちゃうってのが寂しいんだよなあ、うちの職場。
 同僚、ご飯を計量しているのを見て、「大変ですねえ」と言う。
 最後の病院食は白すり身の磯辺焼に、ひじきの煮付け、がんもどきにオレンジ三切れ。全部合わせても250グラム程度。
 「これでも私、他の患者さんに比べると食べてるほうなんですよ」と言うと同僚に驚かれる。どうせたいした病気じゃあるまい、なんて、内心、鼻で笑ってるから「大変」なんておざなりなセリフが出てくるんだろう、マジで苦しい思いしてるんだからな、こっちはよう。
 ああ、いかん。
 いきなり気持ちがスサみ出しちまったい。これで通勤拒否のヒキコモリにでもなっちまったらどうしよう。

 同僚、5分で見舞いを終えてさっさと帰る。
 ムダがなくてよいことである。
 私も銀行に行って、早々と入院費の精算を済ます。さあ、これで保険料が出るまで、今月は金欠病だ。


 午後2時、しげが迎えに来る。
 今朝も自動車学校に行ってて、午前3時からずっと起きてるそうな。「すごく眠い」と言ってるが、いつものことだ。
 ちょうど保険屋さんも来るが、用意していた印鑑が違っていた。父から「通帳の印鑑」と聞いて用意していたのだが、「証書の印鑑」だったのだ。またボケが進行しやがったな。
 仕方なく保険屋さんには明日自宅のほうにきてもらうよう頼む。
 ……親父は自分の知らないところでこんな風にやたらと周囲に迷惑をかけているのだが、そのたびに「そんなの気が付かなかったんだから仕方ないじゃないか」と言って開き直り、怒ってこちらが「少しは謝ったらどうだ」と詰め寄ると「ごめん!」と怒って謝るのである。とことん素直になれないヒネクレモノなのだが、その負けず嫌いな態度が、驚くほどしげに似ているのだ。
 別に血がつながってるわけでもないのになあ。
 しげも昔はまだ素直で、ヒネクレ出したのは結婚してからだから、義理でも親子って、自然に似ちゃうものだってことなのか?

 糖尿病教室が始まるところなので、一緒に聞く。退院後に注意することの説明だが、レジュメを読み上げるだけなので退屈。
 しげが「どうして糖尿は足をきれいにしなきゃいけないの?」と聞いてくる。
 「神経障害が起こってないか気をつけるためだよ」と説明。
 ……さては、水虫が出来やすいんじゃないかとか勘違いしてるな。

 続けて栄養士さんの指導を二人で受ける。
 「外食だけでカロリーコントロールできますか?」という無理かつ失礼な質問にも懇切丁寧に答えていただく。
 丁寧だけれど、答えはもちろん「無理です」。
 ……そりゃそうだろう。
 でも料理をして食べる時間なんて、平日は全く取れないんだよねえ。また太るかなあ。太りたいわけじゃないんだけどなあ。
 退院時の体重、79.5キロ。なんとかこの体重をキープしとかないとなあ。

 ナースステーションで看護婦さんたちにお礼を述べて辞去。
 時間は午後5時。
 次の来院の予約だけしてもらう。本当は半年後が一番いいそうなのだが、もう予定が詰まっていて、4月2日にならないと先生方の体が空かないのだとか。
 やれやれ、また仕事を休まにゃならんか。
 
 夕食は西新の最後の思い出に(大仰だなあ)、美味しそうな店を探す。
 しげが中華がいい、というので、マップを見て2軒ほど見つける。
 小さいがガイドブックに「辛いけど美味しい」と書いてある店と、無印だけどチェーン店らしい大きな店。
 しげ、迷うことなくチェーン店の方を選ぶ。
 「おまえ、その街の味を探そうって気持ち、まるでないね」
 「街の店って不味いところって多いし。だったらファミレス系のほうがいい」
 名物に美味いもの無しって言いたいんだろうけれど、超偏食かつ味オンチのしげがなにクソ生意気なこと言ってるんだ、説得力ねえぞ、と思う。
 で、そのチェーン店でしげ、中華丼とから揚げを頼む。
 一口食べて、「臭い」と言ってしげ、それ以上食べない。味見してみると、別に不味くもなんともない。空腹でしげの舌がバカになってるだけだろう。
 私の方は定食を頼もうと思ったら、単品ばかりで一つもない。日本の中華料理屋としてはこれはランク的には下である。仕方なく炒炒麺(味噌そば)を注文。キュウリが付いてる分、他の料理よりはマシかってことで。
 あまりカロリーオーバーしてないことを祈るばかりである。

 父から突然しげの携帯に電話がかかり、「今から散髪に来んや?」。
 「今、退院したばかりだって。メシ食ってたら、店に回るの7時過ぎるよ」
 「なんで退院がそんなに遅いとや」
 「そりゃ病院の都合やけん」
 「じゃあ、散髪してやれんやないか!」
 だからそこでなぜ怒る。私のせいではないだろうが。
 ……なんかヤクザが「こんなに優しくしてやってるのが分らんのか!」って怒ってるのと同じ理屈じゃん。
 この理不尽なワガママ、年々ひどくなってきてるぞ。なんで私の周りにゃこんなワガママなヤツばかりが大挙しているのだ。


 帰宅してみると、部屋はしげが言ってたほど片付いてない。
 特に風呂は、一昨日、一時帰宅したときに掃除するように言っておいたのに、、床にゴミがこびりついたまま放置されている。で、帰宅して一発目の仕事が風呂場掃除だよ。洗濯物も相変わらず掘ったらかしだし、部屋の中が臭い。
 今度、脱臭剤を買っておかないとなあ。
 ひと片づけを終えて、改めてしげを映画に誘うが、「疲れてるから」と言ったままダウン。
 誰が疲れとるか。働いとるのはワシじゃ!
 仕方なく、一人でキャナルシティへ。
 途中、知り合いの本屋に寄って、買い損なってたコミックを探す。キャナルの福家書店にも回ったが、あさりよしとおの『なつのロケット』だけがどの店に行っても置いてない。
 明日は天神まで回ってみよう。


 映画『RED 赤影 SHADOW』(←タイトルにはこう出る)。
 つまんない、というよりは見ていて不快になった。
 作り手の「手抜き」がモロ見えなのである。……これを手抜きでなく真面目に作ったんだって言うなら脚本家と監督はサルである。
 さて、まずはどこから貶したらいいものか(^^)。
 原作からキャラクターだけを借りて、後は自由に作る、という姿勢はいい。むしろそうあるべきだ。なのに設定もストーリーもキャラクターも陳腐この上ないのはどういうわけか。おかげでこの作り手たちが作りたかったのが何なのか、まるで見えてこないのである。
 冒頭の通りすがりの侍(布袋寅泰)と赤影(安藤政信)の邂逅、これがあとのストーリーに全く効いて来ない。『SFサムライ・フィクション』のキャラクターとリンクさせただけの楽屋オチ。しかもここで主演の安藤、全く殺陣ができないことがバレる(後で更にアクションも出来ないことがバレるが)。だから細かいカットを積み重ねることで誤魔化してるのな。いくらテンポがよくたって、ゴマカシはゴマカシ。映画を見たぞって昂揚感はない。
 ブルース・リーやジャッキー・チェンの、体を張ったカンフー映画を見なれてたらさ、テレビの特撮ヒーロー番組レベルのダサイ吹き替えアクションなんて、感動も興奮もしやしないって。
 この時点で、「アクション映画」としてこの映画を見ることを断念。
 そのあと、青影(村上淳)、飛鳥(麻生久美子)も登場、六角城に忍びこむが、ここをおバカなギャグシーンでつなぐので、おっ、これは「バカ映画」を作るつもりだったのかな、と思って見ていると、話が急に赤影と飛鳥の悲しい恋物語にシフトする。
 この展開もなあ、陳腐っていうより馬鹿って言ったほうが当たってるんだよなあ。
 白影(竹中直人)から「忍者に情は要らぬ」と釘を刺されて悩む二人。「忍者って恋も出来ないの!?」って、湖のほとりで涙の抱擁。青影は青影で、敵を殺して「オレは人を殺してしまった!」
 ……キサマら、今まで“忍者ゴッコ”してただけじゃねーのか?
 案の定、飛鳥は根来の頭領、甚斎に殺される。
 でもなあ、ここが脚本上の一番の手抜きなんだよねえ。要するに復讐のために赤影が立ち上がるわけだけど、これ、モロ山田風太郎の『伊賀忍法帖』のパクリじゃん? しかもこの後、赤影の心は新登場のヒロイン、琴姫(奥菜恵)に移っちゃうから、あくまでストイックに敵を倒し続けた『伊賀』の笛吹城太郎とは雲泥の差、「キサマ、そんなに簡単に飛鳥のこと忘れていいのかよ!」って石投げつけてやりたくなるのだ。
 つまり、ダブルヒロインを上手く並立できないライターが、ええい、面倒臭い、片方殺しちゃえって安易な手に逃げちゃっただけなんだよ。
 あのな、どうせ「定番」な展開でやるならな、石川賢のマンガ『虚無戦記MIROKU』で、主人公の弥勒が、敵の毒にやられた夜叉姫を助けるために、解毒の方法を敵から聞き出すために戦ったみたいにさ、「後何日のうちに助けないと愛する者の命がない」って時限つきの展開にしろよ。その方がずっと緊張感が生まれるだろう。脚本の初歩だぞ、こんなの。
 ヒロインを二人とも生かしておいて、その間で揺れる赤影と二人の女、それぞれの心を描いた方が、より緊張感が増すってもんだ。
 さもなければ、一切そういう恋愛沙汰はカット、アクションとギャグだけで押し進めるべし。中途半端が一番始末に悪い。
 もう一つ、ここでの大きな失敗は、隕石から作られた「無敵の鋼」(これも『ルパン三世』五右衛門の刀「流星」のパクリだね。実際の韻鉄は使いものにならんのが殆どだそうな)、これが敵の根来に奪われるんだけど、それを後の展開で全く生かさないんだよなあ。溶かして鋳直して頭領が身に着ける、くらいのことすりゃいいじゃないか。
 この根来甚斎も馬鹿でよ、雇い主の竹之内基章(陣内孝則)の「琴姫を殺さば所領を遣わす」とのカラ約束にだまされて、琴姫さらった後であっさり殺されてやんの。……何か策を講じろよ、仮にも忍者だろ?
 なにがヒドイって、ここで根来が全滅しちゃうんで、赤影たちとの忍者同士のラストバトルが一切描かれないってことなんだよねえ。つまり、「目玉」がないのよ、この映画。
 ホントに馬鹿。
 また、昔のテレビドラマの設定を中途半端に流用してるところがふざけてるんだよなあ。「赤影参上」「大丈夫」のセリフも使いどころ間違えてるとしか言いようがないし、白影の飛行凧、わずか数カットしか登場しないぞ。
 映画の、というよりドラマツルギーの基本ってものをよ、一から勉強しなおせや、このサルどもが。
 傲慢なことはあまり言いたかないけどよ、多分この映画見た10人中9人がこう思ったんじゃないか。「オレだってこの十倍は面白い脚本書けるぞ」って。
 それにしても、脚本、演出もクソだったけど、特に「役者不在」を感じさせる映画だった。今時のナンパな若い俳優に緊迫感のあるドラマ演技が出来ないのは仕方ないにしてもさ、もう少しマシな配役を考えられなかったのかねえ。
 赤影と青影の大バカ二人組が、飛鳥を間に挟んで掛け合い漫才みたいなやりとりをするんだったら、あの二人、爆笑問題をキャスティングしときゃよかったのである。太田光が赤影で、田中裕二が青影。いや、マジだよ、これ。で、愁嘆場は一切カットして全編ギャグだけで突っ走る。それくらいのアイデア出してみろよ。このドシロウトどもが。
 まあ、こんなクソ見るくらいなら昔の『赤影』を見ましょう。『大忍術映画ワタリ』でもいいです。部屋で寝転んで山田風太郎読んでた方がなんぼかマシです。

 そう言えば『魔界転生』、また映画化計画が持ち上がってるってなあ。だから殺陣が出来る役者が今残ってるかってんだよ。前の映画化だって、若山富三郎の殺陣でなんとか持ってた映画だぞ。


 帰宅するとしげはとても言葉には出来ないような恥ずかしい格好で寝ている。
 溜まっていたメールの返事などを書いたりしていたらもう午前3時。
 久しぶりの夜更かしさんでした。

2000年08月24日(木) たまには一人で映画を見る日もあるさ/映画『怪異談・生きてゐる小平次』ほか



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藤原敬之(ふじわら・けいし)