あふりかくじらノート
あふりかくじら



 仁侠くじらの盃

すべては、死のために。
劇的なる生の軌跡は、仁義とか義兄弟だとか
そういうものにまみれ渦巻いたまま、死に至るのみ。

午後8時のエディンバラ、雲の多い夕暮れの空に
血しぶきの中、何度でも撃たれ弾かれる身体を
フラッシュバックさせる。

北野 武 『BROTHER』
夕べの映画の記憶から。

たとえば彼は、そうやって生きていくしかなかったわけで、
あまりに孤独な魂が生きるには、もう誰かを殺していくより
ほかに術がなかったのだ。
彼の淋しい人生は、人を殺し続けることで彩られていたし、
それはあまりにも遠くうつくしい孤独。
そうして、自らの死の瞬間に収縮されていく、ただそれだけの
すべての営み。
ぷつりと切られるエンディングは、そのことばの重みと
死と愛と、永遠に続くしかないそういう人生を示唆している。

哀しい人生。

死の感触を知っている人間。
それはこういう哀しすぎる作品を描かせるし、哀しい人生を
創造させる。

「仁」とは、思いやりでありいつくしみである。

仁義とか義兄弟の盃とか、堅く古典的なことば。
その哀しさを、繰り返し執拗に描き出す誰か。

わたしの祖父は、その一文字をわたしに遺した。

誰かが撃ち殺されるシーンをみておかしく笑うことは、
わたしにはとてもできない。


2001年04月10日(火)
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