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『カーリー』や『カブキブ』、『シュガーアップル』シリーズを読んでいて、あらためて小説の、ジャンルの「境界線」について考えた。大きく括るとこれらはラノベであり、『カーリー』や『シュガーアップル』は少女小説だろう。
しかし、これらの本では共通して、少女や少年たちが夢や目的に向けて、一生懸命努力し、成長していく姿が描かれている。名作文学のように格調高くはないかもしれないけれど、現代の少女や少年たちに向けて、大切なことが、「今」の言葉でしっかりと語られている。
私にとって、『カーリー』や『シュガーアップル』は、子ども時代にはらはらわくわくしながら読んだ『小公女』やアニメで見、大人になってから読んでもやっぱり心揺さぶられた『家なき娘』(アニメでは『ペリーヌ物語』)に匹敵する。(と思う。もし、これらの小説を子ども時代に読むことができたなら。)
ラノベでまず刊行された『カーリー』は、ラノベの衣を脱ぎ捨て、今は装丁も新たに講談社文庫に収録された。どんなに面白い小説でも、まとう衣(発行されるレーベル)によっては、手に取る読者も限られてくるだろう。 私自身も、「すごく面白い小説」という評判をネットでよく目にしながらも、ラノベの表紙と簡単なあらすじからでは、読書欲はそそられなかった。読むことになったきっかけが、表紙や装丁、文庫のレーベルがほとんど気にならない、というか、装丁等が意味をなさない電子書籍であったというのも、本のあり方を色々と考えさせられる。
読むとすぐに物語に引き込まれ、今は『カーリー』が連載されている『In Pocket』を毎月買っているほどだ。
たまたま読んだ『シュガーアップル』も電子書籍がきっかけ。少女向けファンタジーだけれど、丁寧に物語は描かれ、文章にもお遊びや破綻もなく、世界観もきちんと編み広げられている。読み進めるごとに、『ペリーヌ物語』のペリーヌのように旅の途中、母親を失い、独りぼっちとなった主人公が母親のような職人(銀砂糖師)になろうと、たくましくひたむきに努力していく。レーベルのせいか、主人公が成長するにつれて、若干、恋愛要素も糖度が高くなっていくけれど、おそらく他とくらべると控え目だと思う。
『カブキブ』も、テーマが歌舞伎好きの男子高校生が同好会を作り、仲間を募り、自分たちで歌舞伎を演じるというだけで、野球を通じて主人公の成長や友情を描いた『バッテリー』やぎりぎりの人数で箱根駅伝を目指す弱小陸上部の中で己と向き合い、駅伝と向き合い、仲間と向き合い、過去の自分を乗り越えていく主人公を描いた『風が強く吹いている』と同じカテゴリーだと、少なくとも同じ種類の心の高揚を感じる。もちろん『カブキブ』の表現は勢いがある分、軽妙で、先にあげた小説のように、主人公の内面にある深い傷によりそって、どこまでも内向していくようなエネルギーは感じられないけれど。だからこそ、それでいいという気もする。大きな挫折は無いけれど、小さな悩みを抱えて毎日あたふたするごくごく普通の高校生。違いは、圧倒的マイナーな歌舞伎好き少年というだけで。
YAというジャンルは、ずっと、いまひとつわからないままだ。色々な本を読めば読むほどに、YAは装丁の差なのか?と私の(確信的な)誤解はどんどん深まる。YAと名打たれた本は、ハードカバーでもソフトカバーでも、立派な衣をまとっている(ように私の目には映っている)。価格もちょっとお高い?感じがするし。それに対して、ラノベともなると、とても手軽で身近だ。YAは文学で、装丁や価格帯からも大人でも今では抵抗なく手に取ることができるけれど、ラノベのレーベルともなると、大人は手に取りにくい。そして、今や乱立しているラノベレーベルの中に、埋没し、本来ターゲットである層にも、もしかしたら良質であるがゆえに、届いていないのではないかと、心配になってくる。
YA認定された物語が、旬を過ぎても、文学として、例え細々としてでも残っていくのに対して、良質であってもラノベであるがゆえに、いつの間にか読み捨てられ、単に消費され消えていくのではないかと、賞味期限の短さにも残念な思いを感じている。
賞味期限が短くなって、あっという間に埋没し、消えていってしまうのは、ラノベに限ったことではないし、面白くて良質であっても、売れずに消えていく作品や、もっと知られるべき作家が埋もれていくのは珍しいことではないだろうけれど。本は嗜好品だから、人によって受け止め方も、存在の軽重も違うから、仕方のないことだけれど。
濫読していると、時々、思いもよらないところで、思いもよらない面白い本に出会う。絶対面白いことが分かっていて、絶対的に大好きな作者の本を後回しにしてでも、もうしばらくは、手当たり次第に目についた本を読み続け、貪欲に何かを探し続けたい。(シィアル)
2004年02月03日(火) 『文房具を買いに』
2003年02月03日(月) 『黒ねこのおきゃくさま』
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管理者:お天気猫や
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