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「会長、貴方が死んでも会社は生き続けなきゃいけないんです」
/日本的経営のカリスマ(菅原文太)に向かって・第四話より
何が苦手って、長い間「経済」の話は大の苦手でした。
たいがいの話題には合わせましょう、
しかし経済の話題だけは私に振るなっ!てなもんです。
その昔、「どうして土地の値段は上がり続けると決まっているの?」と問うと、誰もが「現代経済とはそうしたものなのだ」と哀れむように答えた時期がありました。いくら考えても判らなくて、私は世の中の仕組みが理解できないほど愚かなのか、向いていないようだから生涯「経済」とはなるべく関わらないようにしよう、と心に決めました。
そのずっとずっと後になって、誤っていたのが自分ではなかったと知った時、打撃を受けた皆様には申し訳ないのですが、正直ほっとしました。
なんだ。経済って、結局人の心が動かすものじゃないか。
人の心なんてわからない。やはりこんなものには関わりにはなるまい。
今年になって、不良債権処理をほぼ終えた銀行の業績が上向いて来た、というニュースを聞き、あの一生かかっても回収できないと思われた借金を一体どうやって片付けたんだ?やっぱり経済ってわからんなー、と不思議に思っていたところに、見てしまいました、NHK土曜ドラマ『ハゲタカ』。
1998年、先行きの見えない不況に喘ぐ日本に乗り込んで来た外資系投資ファンド。瀕死の日本経済の屍肉に集まるハゲタカと怖れられ、不安と緊張感を煽る青味の強いライティングとたたみかける音楽の中、第一話、いきなり大手銀行のまとめ売り債券を、額面の一割以下に買い叩く。
そ、そうか、銀行で持て余している不良債券は、こっそり専門業者に売っぱらっちゃえば早いのか。銀行から安く買った債権によって手に入れた会社は、業績を悪化させる一方の経営陣を放り出し、収益の上がる会社に仕立て直して高く売る。徹底的に合理的な手法は衝撃的ですが、適正に行えばこれは正しく企業のリサイクル。ただ危機を先延ばしにし、騙し騙し延命を図る「情け深い」やり方では、永遠に日本経済は再生しない。存分におやりください、外資の皆さん。自分たちの手で甦る事が出来るか、日本の企業人。
物語の舞台は1993年から2006年。ノドにささった魚の骨、というようなピンポイントの痛みではない、浅く広い火傷のような違和感の残る、「あれは一体どういうことだったのか」という漠然とした時代の感覚を、今回ドラマによってかなりの部分改めてとらえ直す事ができました。
興味を持つ、という事はおそろしいもので。引き込まれるように見ているうちに、これまでなんとなく頭の片隅にひっかかっていたものの、関心がないので記憶の中に浮遊していただけの用語や概念が、きちんと並んでぱたぱたとつながって、意味のわかるものになってゆきます。現実のスティールパートナーズによるサッポロビール買収をめぐる攻防戦なんて、おかげさまで突然人によどみなく解説できるようになってしまいました。ある日「言語」の存在を理解したヘレン・ケラーのようです。
全六話と短いうえに、視聴率は7〜8%、民放の連ドラなら堂々の打ち切りレベルですが、この数字の中身で特筆すべきは、普段TVドラマを見ない働くおじさん達の層。他のドラマと異なって、異様にビジネスマン達の話題になっているようでした。時代を遠巻きにしていた私がこれだけ引き込まれたんですから、当時現場に居た方々など涙無くして見られますまい。とりたててイケメンも出てこない、女性も数人しかいないハードなドラマですが、七月にDVDが出るそうなので、なんとか大勢の人に見ていただきたいものです。経済知識や歴史的認識が身に付く、という特典を差し引いても、ドラマとしてもこれほど熱のこもったものはなかなかありません。鎧のようにスーツをまとい、仕事に全身全霊をかけて火花を散らす登場人物達の渋い事。この頃、まだクール・ビズってなかったし。
バブル期を知る40代、苦悩する正義のエリートバンカー・芝野さんを演じるのは闘病のために撮影を中断し、復帰して後半を撮った柴田恭兵、やつれ果てた表情は演技か現実か。見覚えのある設定の成り上がりIT社長・西野君20代は破滅的な脆さを感じさせる演技の松田龍平、目つきがお父さんにそっくりになってきました。
しかしなんといってもこの物語の主役は、ドラマの設定ではバブル崩壊後に起きた事件で挫折した元銀行員、NYで別人のように非情な「ハゲタカ」に変身して日本に舞い戻った凄腕ファンドマネージャー・鷲津さん30代、一見普通の人に見えて鬼気迫る演技の大森南朋、抑えた表情の下の揺れ動く心理表現が見事。
ほとんど紅一点の、鷲津氏の真意を追求し続ける報道記者・三島さんを演じるのは栗山千明ですが、それにしても番組スタッフ。せっかくの美女をきれいに撮る事よりも、男性達の苦渋の影を際立たせる事に重点をおいて撮影しています。
天啓の如く舞い降りたハゲタカ。
「その男、悪魔か救世主か」/番組コピー
救世主ですよ。
ぶよぶよと積み重なった鈍い膜を食い破り、無関心だったけれど無関係ではなかった世界に私を引き戻してくれた。(ナルシア)
NHK土曜ドラマ『ハゲタカ』 出演:大森南朋 柴田恭兵 松田龍平 栗山千明/六月にBShiで再放送、七月にDVD発売
『ハゲタカ』上・下 『ハゲタカII』上・下(『バイアウト』改題)
著者:真山仁 / 出版社:講談社文庫
2004年04月28日(水) 『新版 指輪物語2旅の仲間(上2)』
2003年04月28日(月) 「聖なる夜に」
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管理者:お天気猫や
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