恋のさじかげん
れのん



 幸せな瞬間

私は後ろから抱きすくめられるのが好きだ。
顔が見えなくても、雰囲気で、彼の暖かさで、
自分がほっこりと幸せを感じることができる瞬間だから。
どんな顔をしているのか、それもまた興味深いのだけれど、
想像力を働かせて、彼の表情を伺うのもまた、一興。
彼の息が髪にかかり、彼の言葉が耳の近くで囁かれる。
その言葉には、どんな苛立ちも、疑念も太刀打ちできないぐらいの説得力があり、
その響きには、言葉そのものが、より確かなラインをもって頭に直接訴えかける。
いとしい人との、幸せな時間。寒い日・冷ややかな夜・明け初めの朝。。。
いろんな時間に、いろんな場所でそうされたことを思い出す。
幸せは時に、息苦しくもあるけれど、やはり、居心地がいい。
長くそこにはとどまれないことを知っているからか、
なおさらいとしさが増す。
背の低い私は、彼の声が頭の上を掠めるのを聞くのが好きだし、
彼のキスを頭のてっぺんで受けることも好き。
「愛されている」という実感を
誰もが、リアルタイムで、感じることができるわけではない。
終わってしまった幸せの背中を見送ったあとで、
不意に、いま過ぎ去ったのが、幸せだったと気づくようなもの。
手から滑り落ちる砂の一粒に、幸せは喩えられるようなもの。
一瞬で指をすり抜け、二度と同じ一粒を見つけることができない。
どんな純愛でも、熱愛でも、終わるときは来る。
雨のやまない日がないのと、同じこと。。。
だからこそ、今、自分が享受している・共有している瞬間の座標を、
心に刻み付けて、過去も、今も、未来も、大切にしないとって思う。
その彼との、その彼女との、今は、一度きりで、限りあるものだから。

2001年04月23日(月)
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