unsteady diary
riko



 光と闇のはざまで


3月末で同僚が退職した。
コトブキではなく、身体を壊したのでもなく。
上海に行くらしい。
以前から中国で働きたいと言っていた彼女らしい選択だった。


「友達」というのとは少し違った。
同期の中でも連絡をあまり取っていない方だった。
ただ、就職活動中で知り合った彼女とは、出身大学がライバル校だったこともあって、周囲は一流総合職が当たり前という雰囲気の中で、敢えて一般職を選ぶという理由も、他の女の子のように安易なものではなかったという共通点もあって。
いわば「戦友」のようなものだった。
滅多に連絡を取らなくても、彼女が頑張っていることを思えば、歯を食いしばって耐えなければと思った。


未来へ歩む彼女へ、精一杯の餞のメールを送った。
その言葉に嘘はない。
それでも、言葉にならない思いもある。
置いてきぼりにされたような気分で。
羽ばたいていってしまった。
同じ3年、苦痛にあえぎながら、それでも彼女は膝をかがめて、伸び上がる力を蓄えていたのだろう。
そう思ったら、いたたまれなくなった。


私は何をしているのだろう。
何が出来るのだろうか、と。




力を蓄える人もいれば、力を奪われる人もいる。




去年一緒に飲んだ同期の一人が、心を病んで出社できない状態にある。
彼女が営業職として配属されたその支社は、私が新人で配属された支社であり、一時期、あまりの忙殺ぶりとストレスに、ばたばたとスタッフが心を病んで倒れていった支社だった。
正直無理もないなと思いながらも、貴重な戦力のひとりが長期間出社しない状態で、他の人が死んだ魚のような眼をしているのを目の当たりにすれば、同情だけでは済まないのだ。


他の支社でも、何人も籍を置いたまま出社できないで「傷病休暇中」となっている現状が続いている。
それでも欠勤中の社員をクビにするのは容易ではないらしい。
体調不良ならともかく、心の病となると、会社にも責任があるために、そのまま籍を空けておくしかないという。
そして残された人たちは、空いた席が埋まることのないまま、永遠に欠員として認められない欠員を抱えたまま、より一層負担が増えることになるのだ。



鍋をした週末に。
心の病で出社しない人に対する会社の対応について、同期がもらした一言が、強烈に残っている。

「うちの会社は甘えたもん勝ちなんだよ」

不調を不調でないと自分に言い聞かせながら、必死にメンテナンスをして、重い身体を引きずって、来る日も来る日もただ我慢を重ねて。
そうしてどうにか出社している者が、出社できない人をカバーする。
そういう仕組みが正しいなんて、私は絶対に思えない。
ストレスがどれだけ身体に影響するか、わかっているつもりだけれども。
それでも、それでも。
きっと病に苦しむその人を、恨んでしまいたくなるだろう。
想像してぞっとした。


何が悪いのか。
思いやる余裕のない、私たちなのか。
心を病むほどのストレスと労働環境を与える会社なのか。
心を病んでしまった本人の耐性の問題なのか。


こんな会社でも、今年の就職人気企業ランキングでは、同業他社の中でダントツ人気急上昇だそうだ。
思わず笑ってしまった。
業績が好調なのは、人が文字通り犠牲になっているから。
イメージが良いとすれば、それは末端の私たちが、どんなにぎりぎりの状態でも踏みとどまって、お客様にだけは舞台裏を感じさせないように笑顔で接しているから。
若い人が活躍している会社がいいと言うなら、うちはオススメ就職口です。
なにせ30代まで残っていられる人は少なく、40代の人なんて役員以外には存在しないから。
丸3年持ちこたえた私は立派な中堅ベテランです。
うちの平均勤続年数を知るのが怖いったらない。


嗚呼。
就職活動中の学生さんに幸あれ。


2005年04月12日(火)
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