HOME*お天気猫や > 夢の図書館本館 > 夢の図書館新館

夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2007年06月12日(火) --

TOP:夢の図書館新館全ての本

『カサンドラの城』

古書店で装丁の美しさに惹かれて手に取った。英国で幅広い年代の女性に支持されロングセラーとなっている作品だという。かのディズニー映画ダルメシアン大作『101』(『ダルメシアン―100と1ぴきの犬の物語』)の原作者、といえばなんとなく納得してしまう。

それはともかく、『カサンドラの城』はJ・オースティンの『高慢と偏見』やエミリー・ブロンテへのオマージュでもあり、クリスティーもそうなのだが、そうした英国的固有名詞は作品中にもきちんと出てくる。

カサンドラの一家は、イギリスの古城を借りて貧乏生活を送っている。主人公のカサンドラは17歳、書くことに情熱を注いでいる彼女の日記という形で全編が進む。だから、彼女の知り得ない部分は推測しながら読むことになり、そこが物語りにミステリめいた味付けも与えている。

家族は姉のローズ、弟トーマス、作家として一発屋で終わるかもしれない変わり者の父、後妻は元モデルでトパーズという名の美女。もうひとりの同居人として、シャイでハンサムな手伝いの青年スティーヴン。カサンドラのファンである。

しかし、食事にも事欠く貧しさをかこちながら美しい城で暮らす一家に、明確な希望があらわれる。アメリカからやってきた城のオーナー、サイモンとニールの兄弟。カサンドラは金持ちと結婚すると意欲を見せるローズを応援するのだが…結末は思いがけない方向に。

17歳の日記というとイメージが限定されるかもしれないが、単調ではない。生活のなかで次々と大小の事件が起こり(我々の生活のように)、カサンドラの観察力も楽しめ、人を好きになるという理屈抜きの経験によって成長してゆく姿には、年代を超えて共感するものがあるだろう。皆が一堂に会したときの関係と、一対一で心を開いて話すときの関係は、こんなにも違うのだと改めて思わされる。それも私たちが日々の暮らしで体験していることだというのに。

ここには若い人たちだけでなく中年の男女も登場するので、10代の少女には理解しづらい大人たちの関係をも読み込むのなら、むしろ大人の世代にこそ読んでほしい作品だといえる。イギリスでは親子で読まれているという印象を受ける。

カサンドラたちにとっては継母に当たるトパーズの異彩は、物語を縦横に引き締めている。 時として「死の天使」のごとく見える彼女は芸術的だけれど、真の芸術家ではない。モデルもしているけれど、仕事に命がけではない。そして何もせず時を過ごしているかのような夫を愛している。娘たちにとって母親とはちがった意味で、トパーズは魅力的に映っているのだ。

最後になってしまったけれど、カサンドラたちの暮らす村の美しい描写、古城がかもし出す時を旅するような雰囲気を味わいながら、大切なものを探す旅に出てほしい。(マーズ)


『カサンドラの城』著者:ドディー・スミス / 訳:石田英子 / 出版社:朔北社2002

2003年06月12日(木) 「イギリス・アメリカ 児童文学ガイド」
2002年06月12日(水) 『幽霊宿の主人-冥境青譚抄-』
2001年06月12日(火) 『ネバーランド』

>> 前の本蔵書一覧 (TOP Page)次の本 <<


ご感想をどうぞ。



Myエンピツ追加

管理者:お天気猫や
お天気猫や
夢図書[ブックトーク] メルマガ[Tea Rose Cafe] 季節[ハロウィーン] [クリスマス]

Copyright (C) otenkinekoya 1998-2006 All rights reserved.