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夢の図書館新館

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-- 2006年01月26日(木) --

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☆試験に出る『氷壁』

井上靖の『氷壁』を、NHKが連続ドラマ化して放映中です。
原作が発表された昭和30年当時は、仕事で貯めた金を注ぎ込み有給休暇で前穂高に挑んでいた主人公達が、現代の設定で挑むのは8000メートル級、世界最難関の「K2」前人未到のマジックライン無酸素登頂。
華々しい企業スポンサー付きで世間の注目を集める中、主人公のザイルパートナーが謎の滑落死を遂げる。 事故か、それとも。

原作発表から50年の間に変わった登山事情に設定を合わせ、登場人物の名前もドラマではほとんど変更されていますが、主人公達を惹き付ける美しきヒロイン・八代美那子の名だけはそのままです。
美那子さんだけは美那子さんでなきゃ、と憧れるスタッフが多かった、と見ました。

話は良く知っているのですが、実は私は『氷壁』を通して読んだ事がありません。
というのも、妙な所から結末を知ってしまったものですから。
試験の前というと、勉強に関係ない本や漫画を読みふけってしまうでしょう。
私も受験生の頃、自分の受験に必要な科目は放っておいて、過去問集などに載っている国語の出題ばかりあさっていました。
その中に『氷壁』の一場面がありました。
淡々と静かな文章でした。
前後の説明はなくとも、それが物語のラストである事は判ります。
今でも登場人物の言葉と、煙草の箱をはさんで開くようにしたページ、というくだりが印象深く蘇ります。

今でも国語の試験問題を読むのは好きです。
普段は目にしないジャンルの文章に触れられますし、これは、という名文に巡り会う事も多々あります。
自分が試験を受けているのではないので、出題者が回答者をひっかけようと工夫して選択肢に混ぜた、いかにも本当らしいけれど微妙に違う解釈を読むのも楽しい。

しかしながら、中には長編小説のネタを割ってしまっている出題もあります。
以前シィアルに話して呆れられたのが、ずっと以前の共通一次試験に使われていた村上春樹の『羊をめぐる冒険』。
「僕」と「鼠」が暗闇で静かに対話するシーンですが、
試験の問いの最後が、「羊とは何ですか」
‥‥。
確かにこの短いパートだけで、羊とは何かわかっちゃう。
物語の前後に関係なく、選択肢を読めばおのずと解答は得られます。
羊をめぐって長い長い冒険しなくても、ほんの2、3ページ分で羊が判ってしまって、
いいのかそれでっ!

物語全体の印象や文章の魅力を伝える、という点では、ハイライトシーンの取り出しにも意味はあります。
逆に長い物語全体から取り出されて、かえって印象の強まる場面も。
やはりセンター試験の国語に出題された司馬遼太郎の『項羽と劉邦』の一節。
みすぼらしい姿ながら、優れた才を持つ脇役の登場シーン。
『項羽と劉邦』本編はずっと以前にわくわくしながら読みましたが、
か、格好良い。こんな場面あったっけ。
長い物語の中から切り取ってみると、思いがけず印象的。
壮大な映画の予告編に入った1カットみたいです。
試験後、本編を買いに走ってしまった受験生もいたのではないでしょうか。

今が真の正念場の受験生の皆様、
国語の試験問題に出ていた作品の本編が
読みたくてたまらなくても、今は我慢です。
もうちょっとで、好きな本の読める春が来る!
どうか体調に気をつけて、頑張ってください。

(ナルシア)


『氷壁』著者:井上 靖/ 出版社:新潮文庫
『羊をめぐる冒険』上・下 著者:村上 春樹/ 出版社:講談社文庫
『項羽と劉邦』上・中・下 著者:司馬 遼太郎/ 出版社:新潮文庫
土曜ドラマ『氷壁』 出演:玉木宏 鶴田真由 山本太郎
放映:NHK総合、デジタル総合 土曜午後10時〜10時58分

2005年01月26日(水) 『あなたがいるから』
2004年01月26日(月) 『クマのプーさん』
2001年01月26日(金) 『サムシング・ブルー』

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