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「おもちゃ文学」の現代史をいろどる名作。
アメリカとカナダ生まれで、ニューヨーク在住の女性作家による共著。 コールデコット賞のシルバーメダル(オナー賞)を受けた画家セルズニックが絵を担当。 エンピツ描きならではのぬくもりと存在感ある絵もみどころ。
『床下の小人たち』シリーズをほうふつとさせるようなストーリー展開。 主人公は、好奇心ゆたかな人形の少女アナベル・ドール。 かのアリエッティと同じくイニシャルがAで、本を読むのが好きなのも、 作家の古典への愛情だろう。 ドール(という姓)一家は、イギリスで生まれたヴィクトリアンの陶製人形。 アンティークのドールハウスに暮らし、落とせば割れてしまうし、衣裳もすべて手づくり。
そんなドールさん一家が百年もの間過ごしてきた家に、新しい一家がお目見えした。
ドール家の「お隣さん」となったプラスチック製量産ファミリー、アメリカ生まれのファンクラフト一家だ。一見するところ大ざっぱなキャラクターの人形たちとの、不慣れながらも新鮮味のある「人形関係」を軸に、アナベルとファンクラフトの娘ティファニーが友情を育み、行方不明のおばさん人形を探す冒険が始まる。
本書の着眼点でオリジナリティーを感じるのは、 人形たちの不文律というか、掟。 生きている姿を人間に見られてはならない、それはたいていの人形もので 共通の規則である。小人の家族であってもそうだった。
もし見られたら、どうなるのか。 少々のことなら、数時間や数日の「お人形状態」で済む。 ふだん人間の目が届かないところでは自由に動き回っている彼らだが、 そうなると自力では動けず、固まってしまう。
しかし、人間との決定的なニアミスがあれば、最悪の「永久お人形状態」になってしまう。つまり、それは何も感じない、「物」としての人形人生なのだ。いつか処分されて消えるまでずっと。
そしてそれ以前に、人形としての誓いについて、新しい提言が登場する。 つまり、人形は、人間の手で創られ、意識をもった瞬間に、他の仲間によって、 生きた人形として過ごすのか、それとも永久お人形状態でいるのかを決める 「宣誓」を教えられているのだ。どちらを選んでもいいのである。
もちろん、アナベルたちは宣誓をした。ファンクラフト一家だって、 アナベルたちとは違うスタイルであったけれど、自分で自分の主人になることを誓っている。
物語のピークは数十年も行方不明だったサラおばさんの救出劇だが、 人間や隣人との付き合い、友情の深め方という、人間と同じ悩みや喜びを きちんと描いた文学作品でもある。
隣人というと、『グリーンノウの魔女』に出てくる、魔女メラニー・デリア・パワーズの ようなおそろしい隣人だって、人形のなかにはいるかもしれない。 そしてもしかすると、続編に出てくるのはそんな人形なのかも。
続編の『アナベル・ドールと世界一いじのわるいお人形』が 2005年に出ているので、こちらも読みたい。 (マーズ)
『アナベル・ドールの冒険』著:アン・M・マーティン、ローラ・ゴドウィン / 絵:ブライアン・セルズニック / 訳:三原 泉 / 出版社:偕成社2003
2004年12月13日(月) 『おもいでのクリスマスツリー』
2001年12月13日(木) 『骨と沈黙』
2000年12月13日(水) 『私のしあわせ図鑑』
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管理者:お天気猫や
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