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アイヴァンホーとレベッカの恋(と読者が信じるもの)は、スコットの物語で 終わったのではなかった。
なんと、ロウィーナと結婚して幸せに暮らしたはずのアイヴァンホーが、妻と別れ、レベッカと再会してハッピーエンド(ロウィーナも気の毒だが)になる、という続編を書いた狂信的ファンがいる。
その人は、『虚栄の市』で知られるサッカレー。 しかも、この代表作直後の出版だから、ほとんど同時期。最も脂が乗っている時期とも言えるだろう。タイトルはずばり『Rebecca and Rowena』(1850)。読みたくてたまらないが、本邦未訳。ここにも悪人たちは登場するのだろうか?それとも三人の関係が主体だろうか?と妄想が先走るのみ。誰か翻訳していただけないものかと願う。
そもそも、何かそこまでの行為に走らせるヒントが作中にあるのかと問われるなら、 『アイヴァンホー』のエンディング一歩前に、それはある(と読者は信じる)。
彼のロウィーナとの生活は長く幸福であった。(中略)それでもレベッカの美しさと潔らかさがしばしば彼の心に浮びアルフレッドのこの美しい子孫のロウィーナが必ずしも心地よく感じないこともあったのではなかろうか、しかしそういうことを考えて見るのはいささか詮索にすぎることだろう。(下巻448Pより引用)
ファンというものは、作品のなかでついに幸せになれなかった主人公に、だからこそ執拗に想い入れるものなのだろう。人より強くもあり、同じくらい人間的弱みをも持った彼らに。
『風と共に去りぬ』で悲恋に終わったスカーレット・オハラとレット・バトラーのために、続編『スカーレット』を書いたアレクサンドラ・リプリー。ドラマ化もされている。
『オペラ座の怪人』へのオマージュから、F・フォーサイスは13年後の怪人を『マンハッタンの怪人』で知らしめ、スーザン・ケイは『ファントム』で怪人の子ども時代を創造した。
これらの続編を私は未読なのだが、たとえば、トマス・ハリスが『ハンニバル』を あのような形で終わらせなくても、おそらくは誰かが跡を継いだのだろう。
とりわけ、一部の読者、大衆のエッセンスである読者は信じている。
主人公たちのアンハッピーエンドは「まちがい」だったのだ、と(笑)。
(マーズ)
『アイヴァンホー』(上・下)著:サー・ウォルター・スコット / 訳:菊池武一 / 出版社:集英社2005
2003年10月14日(火) 『オリスルートの銀の小枝』
2000年10月14日(土) 『ファッションデザイナー』
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管理者:お天気猫や
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