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子どものころ読んだ全集の中に、1/10以下のダイジェスト版が 入っていた。物語そのものより、写実的な絵で楽しんだ記憶がある。 ヨーローッパの王侯貴族と、ぼろぼろのこじきが入れ替わる世界。 それ以来、きちんと読むのは初めて。
こじきのトムと替え玉になる王子様が、あのヘンリー8世の息子だったとは。 ヘンリー8世の最後の妻、ジェーン・シーモア(『ドクター・クイン』の女優さんをすぐ連想)が産んだ、英国の希望であるウェールズ王子。
王の死後、エドワード6世となる少年は、実際に病弱で、本の最後で触れられるように、治世は6年しか続かない。悲しいことだが、その短い王位は、メアリ1世からエリザベス女王への絢爛たる権力争いに隠れるような、温室の英国薔薇にも似たゆかしさを感じさせられる。トウェーンはこの時代を設定するのにずいぶん迷ったとも聞く。
史実では9歳で即位した王子を、物語のなかではもう少し上の年齢に想定しているらしい。 ただ、絵によっても印象がずいぶん変わるし、この学研版では9歳ぐらいに見える。
1月28日、ヘンリー8世死去。
前日の27日に物語は始まる。
そして2月20日、大団円の戴冠式。
ダイジェスト版にはもちろん入っていなかったが、遊び相手としてエリザベスとジェーン・グレイ、ちらっとメアリも登場するのが一興。グレイ姫のその後を思えるように性格も描き分けられている。
王子が外の世界で知る、当時の罪人への刑罰や理不尽さは、宮廷でトムが知る虚飾と権力の世界を、バランス的にはしのいでいるかのように迫ってくる。しかもその法律を作ってきたのが、父王ヘンリーをはじめ、他ならぬ自分の先祖なのだから。
さて、『王子とこじき』は、1881年に、米本国に先がけて英国・カナダなどで出版され、 日本でも早い時期に最初の邦訳が出ている。 以来、ほんとうに数多くの訳が出ていて、初版本に忠実な再現を完訳で試みた『王子と乞食』(大久保博訳・角川書店2003)も良いのだが、今回の久保田輝男訳もリズムや臨場感、「らしさ」があって堪能した。村岡花子訳(岩波文庫・絶版)も入手できるが完訳ではない。この版はロバート・ローソンの挿絵で、少年が大人っぽい。
訳者の後書きでやっと気づいたのが、主人公のひとりが「トム」であり、あの有名なミシシッピの「トム・ソーヤー」と同じだったこと。それにしても、生まれ育った世界ではない英国の、しかも歴史物語としての小説を、子ども向けというより当時は大人にも向けて、存分に描ききったトウェーンの力量はやはり重厚かつ繊細で、改めて感銘を受けた。
王子を守ってくれる落ちぶれた貴族マイルズ・ヘンダンと、騙されて弟の妻となったイーディスの悲恋も、脇ではあるが色を添えている。ハッピーエンドの恩恵を彼らもあずかれるのは救いだった。
余談だけれど、これを読んでトウェーンは水瓶座?と思ったら射手座だった。 (マーズ)
『王子とこじき』著:マーク・トウェーン / 訳:久保田輝男 / W・ハザレル / 学研1975(絶版)
2004年08月24日(火) 『銀のシギ』
2001年08月24日(金) 『古い骨』
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管理者:お天気猫や
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