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だが、世は、ままならぬものだった。(引用)
中世を舞台にした、子どものための歴史小説。 パイルは簡潔で品格のある文章とともに、繊細で美しい挿絵も 手がける画家である。
タイトルの「銀の腕」が意味するところは、剣でも権力でもなく、 穢れなき純粋さ、知恵の象徴といえる。
主人公の少年オットーは、泥棒男爵の跡継ぎ息子。 「竜の館」で生まれるとすぐ母を亡くしたため、修道院に預けられる。
セント・ミカエルスブルクの僧院は、幼いオットーにとって 祖父にあたるオットー僧院長が統べる、平和な聖域。 そこで少年時代を過ごしたオットーは、しかし、 闘いを日々の糧とする父達の生活へと引き戻される。
そして、敵側のヘンリー男爵に捕らえられたオットーには 過酷な試練が待っていた。 ヘンリーの娘ポーリンのはからいで脱出を果たしたオットーが どのような痛手を受けたかは、読者の心配をよそに、 ただ1行で記されている。
中世の物語というと、なんとなくイメージはあるのだが、 サトクリフとはまた違うアプローチ。 『銀のうでのオットー』のように、 聖俗併せもち、それぞれの場面を象徴するような人物描写には 独創を感じられるし、冒険もあれば恋もある、というのは飽きさせない。
簡単に読めるが、読み返すとまた蘊蓄の深い言葉が並んでいる本。
修道院の庭で、ジョン修道僧が、リンゴの精と天使ガブリエルとの邂逅を語る 場面は、特にていねいに描写している。 幼い頃のケガがもとで大人になれないジョンは、オットーにとって 最適な守り役だったのだ。
オットーが成人後に皇帝の右腕となるのは、 騎士の英雄譚よりもすっきりと納得がゆく。 オットーの善なる知恵が、苦しみによっても 曇らなかったことを、こちらの世界から喜び祝いたい。 (マーズ)
『銀のうでのオットー』著・絵:ハワード・パイル / 訳:渡辺茂男 / 学研1970
2004年07月26日(月) 『魔猫』
2002年07月26日(金) 『オペラ座の怪人』(その3)
2001年07月26日(木) 『九つの殺人メルヘン』
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管理者:お天気猫や
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