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オペラ座の怪人は、華麗でロマンチックな舞台と衣装を取り除けば、 現代で言う「ストーカー」を通り越した「コレクター」的犯罪者です。 いや、これじゃ身も蓋もないけれど。 若い女性を騙して誘拐し、脅迫して操り、逆らうと監禁する、 普通に考えれば許すべからざる悪質な男です。 特別な才能があるからといって、過去に虐待を受けたからといって、 他者に危害を加える事は許されません。 それなのに、人々は何故怪人の物語に心動かされるのでしょう。 彼のそれまでの所業を許し、孤独な魂のために涙するのでしょう。
もし、クリスティーヌがラウルの命と引き換えに自分の自由をあきらめ、 永遠に脅えながら地下に居る事になったら怪人は完全な悪になったのですが。 そうか、被害者の意識がキーですね。 クリスティーヌは最後にはもう脅えていなかった。
楽曲は大好きなのに、今ひとつ結末が納得いかないオペラに
ワーグナーの『タンホイザー』、
細部は面白いのに、今ひとつ結末が納得いかない戯曲に
ゲーテの『ファウスト』があります。
あの堕落したタンホイザーのために
なんで命を捨てる必要がある、エリザベート!
ファウストの魂なんかメフィストフェレスにくれてやれ
マルガレーテ!
心の清らかな娘が救われぬ程汚れた男の為に命を捨てて
神の救済を請う、という北方ヨーロッパの物語は
心清らかでない私にはどうにも理解できないものでした。
でも、やっとわかりました。 この大時代なロマンスに出て来る小娘のおかげで。 クリスティーヌは北国の出身です。 新人の彼女が舞台で喝采を浴びた役は原作では グノーのオペラ『ファウスト』の『マルガレーテ』、 ほら。クリスティーヌはマルガレーテだったのです。
となれば、Das Ewig-Weiblich、永遠に女性なるものの一員。 慈悲の心とか、犠牲の精神とか宣ってもよくわからないけれど。 何の事はない、贖罪の女性マルガレーテも、聖なるエリザベートも、 駆け出しの歌姫クリスティーヌと同じ、 地獄行き決定のダメ男の事が好きだった。
自分が愛されている事を知って、どん底の男達は救われる。 万能で不幸な闇のヒーロー、ファントムの方にばかり ついつい注目してしまいますが、そう考えたら 偉いじゃないですかクリスティーヌ。
You alone can make my song flight.......
捧げられた魂を天使に返し、最後に一人きりになった怪人の歌に 隣の席の観客は涙しています。
it's over now, the music of the night........
(ナルシア)
『オペラ座の怪人』 著者:ガストン・ルルー / 出版社:創元推理文庫
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管理者:お天気猫や
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