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「ごめん。急いでいるから」
「今はどうしてもできないんですよ」
私も…そう言えるとは限らない。たとえ、一生で一番、期待している出来事が待っているとしても。やっぱり、ティム少年のように行動してしまうかもしれない。8歳で、カモメ岬の燈台守の一人息子、まだまだ小さいティムのように。
いつも独りで遊んでいるティムは、キャンプに来た子どもたちのグループと知り合い、ズンデヴィト岬へ一緒に来ないかと誘われる。この不思議な名前は、私たちにとってさえ、未知への期待を抱かせるが、ドイツの子どもたちにとったら、ずいぶん冒険心をくすぐるのだろう。
お前はまだ小さいから、と不安げな両親の許可をもらい、子どもたちのグループと待ち合わせの約束をしたティム。そのティムを試すかのように、つぎつぎと頼まれごとがやってくる。あれを届けて、お願いだから。他に誰も頼める人がいないから。夢のなかで、いつまでも行きたい場所へ着けないような焦燥。自己犠牲への満足と、何度も何度も打ち砕かれる希望。非情な時計。
それでも、ティムはあきらめない。ティムの必死の格闘は、どこの段階で終わったとしても、現実にはよくあることで済まされる。くじけた時点で、それは終わる運命だ。ただその裏には、子どもの苦悩と喜びが混じり合った濃密な時間があったことを、私たちは想像せねばならない。
ティム、もう少しだから。きっと次の角には、彼らが待っているよ。 いつのまにか、呼びかけている。ティムほどは粘り強くなかった自分の子ども時代に向けて、なぐさめの言葉をかけている。
本のカヴァーに、こう書かれている。
発表以来40年
ズンデヴィトを知らないドイツの子供はいない
とまで言われる名作
そういう作品、日本の子どもの心にある夢の場所は、テレビジョンの教えよりもリアルな形をしているだろうか。と思わされる。
表紙カヴァーをはずすと、背に金文字を入れた緑の美しい布製本があらわれるのも奥ゆかしい珠玉作品である。 (マーズ)
『ズンデヴィト岬へ』著:B・プルードラ / 訳:森川弘子 / 未知谷2004
2004年07月29日(木) 『歌うダイアモンド』
2003年07月29日(火) 『魔術師のおい』
2002年07月29日(月) 『グリーン・ノウの魔女』(グリーン・ノウ物語5)
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管理者:お天気猫や
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