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暑い夏も祈っているうちに過ぎてゆき、 とうとう、9月1日になった。 いよいよである。気合いが入る。
その1日、私は出先から午後早く戻ってきた。 少し用事をしてから、またトンボ帰りする予定だった。 とりあえず路上に車を停め、家まで数メートル歩いたところ、 小学生の下校集団と行き会った。 見れば彼らの足下に、白いものがいる。
子犬である。 その集団に近所の男の子がいて、あいさつをした。 どうしたのかと問うと、捨て犬だという。 見れば、生後2ヶ月弱といったところ。 全身白で、ひょろひょろしていること、このうえない。 男の子は、子犬を抱き上げると、私に手渡した。 そして「お願いします」と頭を下げた。 「まあ、何とかするから」と答えて、 がさがさした毛の子犬を抱えた私は、庭に入った。
困ったなあ、と思う。 犬を飼うつもりはぜんぜんなかった。 中学のころ飼って以来、犬はいなかったし、 何と言ったって、これから、チータの転生を捜そうと しているところなのだし。
ちょうど食べ残したお弁当を持っていたので、 ごはんを見せると、目にもとまらぬ早さで食べた。 そして、すぐにごろんと横になった。もう眠っている。 栄養失調の極みなのだろう。お腹だけが丸い。
不気味な顔の犬よと大騒ぎしている親を残し、また仕事へ戻る。 やたらと耳が長く突き出た子犬は出て行こうとせず、 しないばかりか、早くも誰かがやってくると、 一人前に番犬の声でうなっている。
結局その日のうちに、もう、子犬を飼う決心をしていた。 親は何とか説得した。もともと猫よりは犬のほうが 受け入れられやすい家なのだ。 子犬を託してくれた子は、父の幼なじみの孫でもあり、 まあ、あの子がそう言うならね、というあきらめもあった。 (その子も飼いたかったのだが、すでに犬がいた)
子犬はさいしょの数日、ぜんぜん庭から出ようとせず、 もうすんなりと、ここを家と決めたようだった。 まだ子犬だから、だれが主人ということはないが、 数ヶ月後には、私が主人となった。
名前を決めるのに思い悩んで、1ヶ月もかかった。 しかも、性別をまちがえていて、男の子と思い、 「ルーク」(ルカ)と決めて獣医さんにワクチンを打ちに行ったら、 女の子ですよ、と言われ、とっさに「ルー」となった。
私のなかでは、戸惑いもあった。 これでいいのだろうか、 猫はどうなるのだろう、という思いである。
ただ、ルーが家に来てから数日して、気づいたことがある。
あの、夏の間からときどき、胸に浮かんでいた言葉。
それは、
「白い子犬」
というメッセージだったのだ。
意味もわからなかったあの言葉が、現実になってやっと、 これはひょっとしたら、あの霊験あらたかなお宮とのご縁で 我がもと寄越されたのではないだろうか、と。
他の猫や犬と、まちがえようのない形で。 はいこれだよ大事にね、と手渡されたのだ、家の前で。 期日きっかり、9月になれば。なるやいなや。 これ以上に確実な方法があるだろうか?
そして、犬であること。 これも大きい。というのは、猫ならば、 今とちがって、外猫になる運命だったから。 またしても、なわばり争いに負けて、庭にいられなかった 可能性も強いし、どっちにしても家の中には入れないのだから、 かわいそうである。 それにくらべて犬は、犬小屋も作ってもらい、昼間は庭で 放し飼いという境遇である。 どちらに生まれたほうが条件が良いか、おのずと知れる。
そういうことなのだ、きっと。そう思えば納得である。 今はそうでもないけれど、幼いころのルーには、 どこか猫めいたところがあって、ハンター精神も旺盛だった。 「チータでしょ?猫だったからそうなんでしょ」 と問いかけたりしたものだ。 そういえば、かのお宮の伝説にある、白いうさぎに 似ていなくもない、耳長のルーである。
あれから7年にもなり、あいかわらずルーは元気だが、 いまでは高齢犬用の低カロリー食を愛用している。 チータの年齢をとっくに越えて、わが家の犬の最高寿命を 記録している。 その後、チットとチャイコが来て、部屋住みの初代猫になった。
チータとルーのお礼参りは、いまだ済んでいない。 それが目下の悩みでもある。 (マーズ)
『猫にかまけて』著者:町田 康 / 出版社:講談社2004
2004年03月16日(火) 『しあわせいっぱい荘にやってきたワニ』
2002年03月16日(土) 「海は小魚でいっぱい」
2001年03月16日(金) ☆春休みのお知らせ
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管理者:お天気猫や
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