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子どもと子どもの本が大好きだった、 児童図書館員第一号、英国在住(この本が訳された当時)の アイリーン・コルウェル女史によるファージョン論。
彼女とファージョンの交友関係は、 お互いに真摯な友情を基本にしており、 見も知らぬ著者を評論するのとはトーンが異なる。 『ムギと王さま』『リンゴ畑のマーティン・ピピン』 『銀のシギ』といった代表作をはじめ、 初期の作品『ロンドンの町のわらべうた』や詩集・戯曲なども あますところなくとりあげて批評しながら、 そこには、いきいきとしてひらめきに満ちた世界が広がる。 深い理解に裏打ちされた考察は、私たち読者の前に ファージョンが生身の友となってあらわれてくるようだ。
巻末には詳しい年譜があり、英語の出版リストも掲載されている。 ここで、ファージョンが1881年2月13日生まれの水瓶座だったことを あらためて知った。 なる、ほど(あれやこれや思いあぐねる)。
本書が25年前(翻訳出版の)に英国で出版された当時、 ファージョンのことを書いた本は他になく、 ファージョン本人も非常に喜んでくれたという。
思い知ったのは、 ファージョンが散文だけでなく、詩才に突き動かされた 人生を送った人であったこと。
いついかなるときでも、 生まれてから死ぬまでのどんな瞬間にでも、 ことばのひらめきが、韻を踏み踏み、意識の表に 立ち現れる人生、とでも言おうか。
しかも、劇作家でもあり、作曲もこなしていた。
ファージョンの家庭環境は独特である。 本であふれかえった家、文化度の高い両親のもと、 正規の学校教育を受けずに育ったファージョンにとって、 「書くこと」は生活の一部分だったという。 それは他の兄弟にとっても同じで、 4人の子どもたちは皆、なにがしか芸術方面で活躍している。
その環境で培われた遊び、「TAR」のことが本書でふれられている。 ファージョンが兄のハリーと二人で秘密ごっこのようにとりつかれ、 25歳になるまでその影響から抜けられなかったという 空想のシミュレーションである。 (TARの意味は、他愛ない暗号めいたもので、二人が当時見た 芝居の登場人物たちの頭文字)
ハリーが立てた筋と登場人物に沿って、 ファージョンとハリーが際限なく続けた「ごっこ遊び」。 現実から離れ、ときには離れすぎ、 ファージョンは、人生でこれほど影響を受けたものは 他にないとまで言っている、というのだ。
けれど、夢のキャラクターを想い、演じることにはまりこんだ 子どもたちは、無駄な時間を過ごしたのではなく、 将来紡ぎ出す作品のための原料を蓄えていた、 と考えたい。
多かれ少なかれ、そうした遊びにうつつを抜かした、 というより、とりわけ子ども時代に、 そういう癖にとりつかれていた子どもの一人として。 (マーズ)
『エリナー・ファージョン−その人と作品−』著者:アイリーン・コルウェル / 訳:むろの会 / 出版社:新読書社1996
2003年08月12日(火) 『パリの子供部屋』
2002年08月12日(月) ☆コールデコットの絵本展
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管理者:お天気猫や
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