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世界で一番美しい女性、トロイのヘレン。 彼女一人をめぐってトロイア戦争がおこったと言われる伝説の美女ですが、 今回、映画『トロイ』を見て私は目からウロコが落ちました。 小説やマンガを実写化する際、読者がイメージするものとは どうしても異なるので不満は必ず出るものですが、 『イリアス』の場合、世界一の美女ヘレンはどうする?
ああ、そうかっ! ヘレンは実際に必ずしも絶世の美女である必要はないんだ。 三人の女神の美しさを競う「パリスの審判」も、 アフロディテのご褒美も現実の戦争には関係ないんだ。 絶世の美女相手ではなくとも若い王子は恋に落ちる事もあるでしょう。 絶世の美女ではなくとも顔に泥を塗られた夫は彼女を追うだろうし、 もともと王子の国を狙っていた者達はこれ幸いと攻撃をしかけるでしょう。 絶世の美女でなくても、戦争を引き起こす事はできるんだ。 いや、映画の女優さんが美人でなかった、と言う訳ではないのですが。
絶世の美女かどうかはおいておいて、どちらにしても豊かで美しい トロイ一国を滅ぼし大勢の勇者の命を失わせる原因となってしまった ヘレンですが、戦争後彼女はどうなったか。 『オデュッセイア』にその後のヘレンが登場します。 すごいですよ。『イリアス』のヘレンとはまるで別人です(笑)。 トロイ陥落後、ヘレンは元の夫のメネラオス王(映画では悪役っぽくて、 あっさり殺されてしまいましたが)とスパルタの国で再び仲睦まじく 暮らしていました。 しかもトロイの戦争の最中にはもう心変わりがして、アカイア軍に味方 していたという。
『アプロディテのせいで起こったわたくしの心の迷い(中略) 自分の心の迷いが口惜しくてならなかったのです』
な‥‥なんて女だ。 でも、実は私はぬけぬけとしたこのヘレンの言い方が気に入っています。 パリスなんかと逃げて夫を裏切ったりしたのは、自分が悪いんじゃない、 女神アプロディテのせい──人間の理性ではコントロールできない 恋という神の力のせいだ、と言うのです。 夫メネラオスも、逃げた妻の様々の行状にも神のせいだから仕方ないよね、と 寛大です。 正常な精神状態下になかったので情状酌量、といった感じですね。 お‥‥面白い。 まあ、美人だから、居てくれればなんでもいい、許す!という 感じもありますか。
『イリアス』はアガメムノン王とアキレスが愛人の奪い合いで いがみ合う場面から始まっていて、初めて読んだときは 「たかが女の事」くらいで戦況を危うくするとはなんと愚かな連中だ、と 思ったものでしたが、それを言うならこのトロイア戦争そのものが 「たかが女の事」で始まったものだったのでした。 情念(パトス)の物語と言われるパッショネイトな『イリアス』、 たかが、などと思ってしまった私なんかよりも、3000年前の英雄達は 人を深く想っていたのでしょうね。家族や友人を想う強さも圧倒的です。 その想いの深さこそが悲劇を増幅する。(ナルシア)
『イリアス』著者:ホメロス / 訳:松平千秋 / 出版社:岩波文庫
『オデュッセイア』著者:ホメロス / 訳:松平千秋 / 出版社:岩波文庫
映画『トロイ』監督:ウォルフガング・ペーターゼン /
出演:ブラッド・ピット(アキレス)、エリック・バナ(ヘクトル)、
オーランド・ブルーム(パリス)、ピーター・オトゥール(プリアモス)
2003年07月22日(火) 『子どもたちの日本』
2002年07月22日(月) 『紙人形のぼうけん』
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管理者:お天気猫や
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