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メアリー・ポピンズ、第四作。 三作までの間に起こった公園でのできごとが、 6つの短編となって収められている。
『とびらをあけるメアリー・ポピンズ』で ラングの『緑いろの童話集』が出てきたが、 本書でも、『銀いろの童話集』が登場。 ただ、『銀色』は、日本で出ているシリーズの全12冊には 含まれていない。なので、ここに登場する三人の王子様と 一角獣のお話は確認できなかった。あるいはトラヴァースの 創作した王子様かもしれない。
タイトルからもわかるとおり、今回の短編はすべて、 公園が舞台となっている。 だから、例の規則にうるさい公園番のスミスも、毎回いつも登場する。 それにしても、彼のお母さんが、あの人だったとは!驚かされた。
ジェインが公園のなかの手入れされていない場所に 自分で小さな公園をつくり、マイケルと一緒にその庭の なかへ入り込んで、自分のつくった粘土の人形たちと出会う 「公園のなかの公園」。 昔からミニチュアサイズになった自分を空想することが好きな 私には、とりわけ楽しめるお話だった。 ジェインはさいごに、メアリー・ポピンズにたずねる。 決して答えてもらえないことを知っていながら。
「世界じゅうのものは、なんでも、なにかほかのものの なかにあるんだと思う?」(/引用)
トラヴァースは精神世界や「禅」にも造詣があったとの ことだが、こういった入れ子の世界や本質を反映する影の世界という観念は、 イギリスの子どもたちにもキリスト教的な背景を通して 案外受け入れられるのかもしれない。
さて、今回、楽しみにしていたのは、 ラストをしめくくる、「ハロウィーン」。 ケルトの血をひくトラヴァースが、バンクス家の子どもたちに 用意したハロウィーンは、アメリカ式の「トリック・オア・トリート」 とはずいぶんちがう、ずいぶん楽しいお祭りだった!
風が不気味に吹き荒れる秋の夕方、 公園もまた、ハロウィーンの精霊たちに場をゆずる。 すべての「影」たちが抜け出して大騒ぎする夜、 鳥のおばさんは子どもたちに言うのだ。
「なんにもなしじゃ、なんにもできないよ、いい子ちゃん。 それに、そのために影があるんだよ──ものを通りぬけるって ことさ。通りぬけて、むこう側へ出るのさ──そうやって、 賢くなるんだよ。」(/引用)
鳥のおばさんの言う「影」こそ、メアリー・ポピンズの 魅了する空想世界の引き出しでもあるのだろう。
ああ、まこと、私たちの家の灯りが、 遠い星の影であるのならば。 (マーズ)
『公園のメアリー・ポピンズ』 著者:P・L・トラヴァース / 絵:メアリー・シェパード / 訳:林容吉 / 出版社:岩波少年文庫2003(新版)
2002年11月25日(月) 『うわの空で』
2000年11月25日(土) 『日本語の磨き方』
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管理者:お天気猫や
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