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夢の図書館新館

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-- 2003年09月19日(金) --

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『馬と少年』

ナルニア国物語、その5。 年代記的には、人間界から来たピーターたちが魔女を倒し、 アスランによってナルニアの王となって数年後、 いわゆるナルニアの全盛期である。

原題は、『THE HORSE AND HIS BOY』。 そのままだと『馬とその少年』になるのだが、 これは、馬が普通の馬でなく、ナルニア生れのもの言う馬ということで、 だから馬が人間の飼い主であっても不思議ではない、 というナルニア風常識に由来している。

ただし、ナルニアの物語ではあるものの、舞台のほとんどは 周辺の国である。ずっと南の国、カロールメンで漁師の子として 育てられた少年シャスタと、ともに逃亡の旅をすることになった もの言う馬ブレー、そして同じく逃亡しているお姫様、アラビスと 彼女のもの言う馬フインが主人公。 しかしナルニアにあこがれる彼らはアスランを知らず、 守ってくれる存在を、最初はただの猛獣としてしか見ることができない。

人間界からの子どもたちはナルニア王の4人だけである。 といっても、もう子どもではなく、堂々たる王族なのだったが。 『馬と少年』と『銀のいす』はどこか空気が似ているのだが、 『銀のいす』で「だます女二人」のことを書いたように、 ここでは、「逃げる女二人」のことを書かねばならない。 今回の逃げる女は、先ほどのお姫様、アラビスと、 ナルニアの女王、スーザンである。 二人とも、理由は同じ、嫌な相手との政略結婚から 逃げているのだ。

そして、全体を通して見ても、生まれ故郷のナルニアへ逃亡する もの言う馬ブレーやフインをはじめ、 ナルニア一行とともにタシバーンへ来たコーリン王子も脱走の常習犯らしい。 ナルニアの王たちもまた、敵のふところから、裏をかいて逃げるのだった。 シャスタたちはときに、つきまとうライオンの牙からも逃げるのだが、 結果として逃げながら成長し、判断力を養ってゆくので、 逃げることには私たちが思う以上の意味があるのかもしれない。

ところで、『ライオンと魔女』で最初の道案内となった、 あのフォーンのタムナスさんが、王たちとともに逃げる手伝いをする場面は とてもうれしくて、気のいいタムナスさんの名誉が挽回されたことに、 乾杯したくなった人も多いことだろう。

アラビアンナイト風の習俗で描かれるタシバーンの都は、 ティスロック王の独裁帝国。 アーケン国とナルニア国を攻め滅ぼす奇襲作戦を知った二人と二頭は、 決死の覚悟で砂漠を越え、北をめざす。 自由の国、ナルニアを救うために。

『馬と少年』には、『銀のいす』と同じく、各所にあっと驚く仕掛けが 用意されている。なかでも緩急自在に変身するのはアスランその人である。 それは読んでのお楽しみだが、 タシバーンの都でシャスタがナルニア王たちに捕まる場面は、 『王子と乞食』を連想させる名場面のひとつだろう。 (マーズ)


『馬と少年』 著者:C・S・ルイス / 絵:ポーリン・ベインズ / 訳:瀬田貞二 / 出版社:岩波少年文庫1986

2002年09月19日(木) 『陰翳礼讃』
2001年09月19日(水) 『散りしかたみに』
2000年09月19日(火) 『薔薇のほお』

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