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天国にゆくのに、彼女は三日かかったのだという。
近所に住む連続殺人犯の手にかかって殺された少女、 14歳のスージー・サーモン。 いま、スージーは「わたしの天国」と呼ぶ場所にいる。 新人カウンセラーのフラニーもついていて、 死者の魂が、生者とどう関われるのか、スージーは 少しずつ知ってゆく。
スージーの視点で、淡々と語られる物語は、 どこか冷めた死者の言葉であるにもかかわらず、 露の乗った花びらのように、みずみずしい。
天国でスージーが知った事実は、魂が成長するのは ただ下界でしかできないということだった。 生きている者だけが、夢を追い越すことができる。 天国の人たちは、夢を自由に形にできるけれど、 成長することだけは許されないのだと。
犯人への復讐心も当然あるし、事件のてん末が明るみに出る ことを願っているスージーだが、 それよりも、家族のほうに──自分を残して成長を つづける妹、弟、父、母、(そして犬)の現在に寄り添うことに いっしょうけんめいな姿に、私たちはソーダ水のような あまやかさを感じてしまう。 家族全員の思いを、そばにいて体験するスージー。 大事なことが、今は透き通ってわかる。 それなのに、何も伝えられないもどかしさ。 ほんの一瞬、ほとばしる感情が、奇跡を残すこともあるけれど、 いつだって、大事なことは、透明な手をすりぬけていってしまう。 家族を奪われた最悪の悲しみから、一度はこわれかける絆。
そして、初恋の少年との、ありえない未来。 生きていたときの友人、死んでから共鳴するようになった友人。 細やかな少女の感性で描かれた、脈打ちながら変化してゆく関係。
スタイルからはヤングアダルト小説なのだと思うが、 おそらく日本ではちがった位置付けで出されているのだろう。 まだそれほどのベストセラーではないようだが、 本国アメリカではデビュー作にもかかわらず250万部を越えたというし、 30カ国で出版が決まっているという。
生者に向けられた死者のまなざしへ、世界中の人びとが想う共通項が 形になっていった作品ともいえるだろう。
タイトルのラブリー・ボーンとは、 著者の造語で、「死をきっかけとして広がっていく人々の輪」であり、 「再生には不可欠の関係」だそうだ。 (マーズ)
『ラブリー・ボーン』 著者:アリス・シーボルド / 訳:片山奈緒美 / 出版社:アーティストハウス2003(角川書店)
2002年09月10日(火) ☆「怪人二十面相」の正体
2001年09月10日(月) 『夜物語』
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管理者:お天気猫や
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