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先日、旅先のホテルのベッドに寝転がって TVドラマ『明智小五郎 対 怪人二十面相』を見ました。 舞台となるお屋敷のセットがどれもなかなか豪奢で、 「気合い入ってるなT◯S!」と嬉しくなってしまいました。
放映前から評判になっていたキャスティングは、 どうしたって明智先生というより当り役の名探偵、 古畑さんにしか見えない田村正和氏はまあしかたがありませんが、 多くの人が意外と言った怪人二十面相役のビートたけし氏は 私は結構いけるのではないかと思っていたのでした。 だって、『怪人二十面相』のモデルって かなり『オペラ座の怪人』入っているでしょ。
江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズの敵役、 貴重な美術品や宝石ばかりを狙い、大胆不敵にも犯行予告をして 厳重な警備の中でも易々と獲物を盗み取る『怪人二十面相』は モーリス・ルブランの生み出した『怪盗ルパン』が モデルとなっているのは言うまでもありません。 というか、ルパンの物語を日本の少年向けに 翻案したのが怪人二十面相とも言えますね。
けれど美術品と美女に彩られ颯爽とした紳士ルパンと違って、 「怪人」二十面相は「怪盗」ではなく「怪人」と呼ばれます。 おどろおどろしい怪奇事件を見せつけて 人々を脅かして楽しむ二十面相は怪盗というよりも、 天才的な建築技術を駆使して人々を恐ろしいイリュージョンに巻き込む オペラ座の「怪人」の後継者なのです。 (それはそうと二十面相のイリュージョンって凄いんですよ、 銀座の空にUFOを飛ばして宇宙人来襲を信じさせたり、 自由自在に姿を現せる金属性のロボットが宝石を盗んだりとか、 小学生の私でも騙される訳なかろうと呆れた怪事件も数々)
『オペラ座の怪人』を自作でニューヨークに甦らせた フレデリック・フォーサイス (『マンハッタンの怪人』・10月に文庫化するそうです)に、 「ルルーの語る後半の荒唐無稽な部分は、唐突に登場する 『ペルシャ人』の作り話だ」と切って捨てられ、 ミュージカルで大幅にカットされた『オペラ座の怪人』 後半活劇部分は、確かに今日見ればなんとも大時代的です。 いきなり現れる探偵「ペルシャ人」と共に怪人の支配する オペラ座の地下世界に向かった青年貴族ラウルは、 拷問部屋に囚われ恐ろしく幻想的な仕掛けに苦しめられます。 しかしこの部分こそ、海外ミステリの紹介に粉骨砕身した乱歩が 昭和の東京に再現したかった部分だったのではないでしょうか。
今回のTVドラマ製作スタッフも、二十面相にルパンではなく オペラ座の怪人の面影を見たのでしょう。 ドラマでは「二十面相は人を傷つけない」という原作の 怪盗ルパン譲りのルールは無視されて、探偵の命を狙う展開となります。 そしてドラマの後半、二十面相のアジトにのりこんだ明智探偵は ペルシャ人さながらに「恐ろしい仕掛けの地下の拷問部屋」に 閉じ込められます。
更に、少年向けの小説に乱歩が描かなかった 「明智探偵と二十面相の過去の因縁」と 「二十面相が別人の顔ばかりを持つ理由」を、 今回TVドラマのスタッフは考え出しました。 怪人の苦悩と悲哀に心動かされた美女(宮沢りえさん)が ラストで滅びゆく二十面相と共に行く決意をする、 おお、まさに怪人の最期。 ですから煌々たる月光を浴びて博物館の大屋根に立ち 黒いマントを翻す怪人二十面相は、 怪盗ルパン型美男ではなく、容姿からいえば冴えない中年男の オペラ座の怪人にイメージの近いビートたけし氏が はまり役だったと思うのでした。(ナルシア)
『怪人二十面相』 著者:江戸川乱歩 / 出版社:ポプラ社
『オペラ座の怪人』 著者:ガストン・ルルー / 出版社:創元推理文庫
『マンハッタンの怪人』 著者:フレデリック・フォーサイス / 出版社:角川書店
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管理者:お天気猫や
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