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この本の副題は、「しあわせな大詰めを求めて」。
『しあわせな大詰め』とは、猪熊葉子が師事した
トールキン教授の造語、Eucatastropheを彼女が訳したもの。
平たくいえばハッピーエンドということになるとして、
本書の半分は、この最後の講義、人生の『大詰め』に際して、
児童文学に没入した彼女の子ども時代をふりかえる
ことにあてられている。
過去の、そして今も彼女のなかにいる子どもについて
語る口調は、晴れてオープンである。
なぜ、これほどまでに自身の子ども時代を語ったのか。
『はっきり自覚はしていなかったが、不幸な家庭環境』(/本文より)
のもと、ハッピーエンドの児童書を読みつづける体験が、
いかに必要な糧だったのか。
ACという言葉こそ使っていないが、
虐げられた子の立場から、母であり歌人であった葛原妙子を
語り、母自身もACであったことを語ってゆく。
母親だけが糾弾されているのではないが、母との関係が
子にとっていかに影響力を持ちうるか、猪熊葉子は
勇気をもって書いている。
『残された人生の課題は、そこからどのように抜け出て
自由に生きることが出来るようになるか、その道を探すことだろう』と。
すぐれた児童文学を共感し、『しあわせな大詰め』を
繰り返し体験することで、自分のなかの子どもが癒される。
現実の世界で幼い身体に生じてしまった不具合も、
本の世界で学んだ暖かいコミュニケーション、
書き手からの励まし、まっとうで人間らしい感情の定義づけによって、
安心して生きてゆくための力に変えられる。
数々の『子ども時代の生き直し』体験をさせていただいた
翻訳児童書について、ずっと想像していたことがある。
作家だけでなく、訳者の方々もまた、一読者と同じ思いを
抱いているのではないだろうか、と。
満たされない子ども時代を過ごされたとすれば、
この作品の、この部分に、
涙されずには進めなかったのではないだろうか。
そしてその作品と出会わせてくれた運命に、
感謝したのではないだろうか、と。
(マーズ)
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管理者:お天気猫や
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