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映画『ロード・オブ・ザ・リング』を見ました。 なんといってもイライジャ・ウッドの 水深きケレド=ザラムの湖のような青い瞳が、 ‥‥とかいう事はおいといて。
小説に関連した感想に絞りますと。 ピーター・ジャクソン監督始めスタッフ一同は J・R・R・トールキンの『指輪物語』を 心底愛しているのだなあ──という一言。 彼らは映画を自分達の作品としてではなく、 あくまでもテキストに奉仕する映像として 真摯に画面づくりをする事に専念したようです。
大好きな本は他の人にも読んでもらいたい。 「こんな話でこういうところが凄いんだよ、読んで読んで!」 でもその本は気軽に手をつけるにはあまりにも長大。 今回の映画化は手軽に入り込める 後世代のファンタジーに埋もれてしまって 読み手の少なくなってしまった源流を、 今一度世に知らしめてできるだけ多くの新しい読者を 開拓したいという一大プロジェクトなのではないでしょうか。
映画化に際して変更された場面のほとんどは 製作者の作家性の発露ではなく、 映画という形で見やすいように物語を編集した部分にあたっています。 原作の「緩急」の「緩」の部分はほとんどカットされますが、 「見てわかる」以上の奥行きがある事をそれとなく語り余して、 映画鑑賞後多くの人がいずれ原作に手をのばさずには いられなくなるように、巧妙に物語を紹介します。 多数の人の目に止まり易い美しい映像で釣っておいては、 ずぶずぶと原作の泥沼に引き込む作戦ではないかと。
トールキンの文章はキャラクターの具体的描写をあまりせず、 タイプで把握されるように書いているのですが、 映像化で個々の「顔」が決められた事でとっつきやすくなった、 というビジュアル世代も大勢いるだろうと思われます。 もしかしたら製作者達は映画自体の興行成績以上に 自分達の映画の力で原作本がどれだけ売れたかが気になったりして(笑)。
書籍と映像の相乗効果を見込んだメディア・ミックス? 70年代の『指輪物語』ブームの時は関連商品が大ヒットして 長い間人々が見向きもしなかったファンタジーという分野が 一大ジャンルに育ったのだそうですね。
でも映画『ロード・オブ・ザ・リング』は 更に深くテキストにかしずいている雰囲気があります。 この関係は、そう、小説の挿し絵。 細密で美しくて激しく動く豪華な挿し絵。 貶して言うのではありません。 一枚の優れた挿し絵は元になる小説を知らない、 あるいは興味がない人々にも後々まで残る 深い印象を与える事が出来るのは皆様御存知の通り。
このまま三部作の最後の最後まで、 原作への変わらぬ忠誠を続けて欲しいものです。 フロドに尽した我らがサムのように。(ナルシア)
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管理者:お天気猫や
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