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「最終講義」とあるように、1999年に白百合女子大学で
行われた猪熊教授の最後の講義を本にしたもの。
読みやすくまとめられているが、ここに凝縮された情報や
『感じ方』は、研究者の世界から遠いところで
ただ児童文学を読みふけっている私にとって、
生涯をかけてそのことに関わってきた人だけが与えてくれうる
『そうだったのか』の連続だった。
翻訳児童文学をある程度読んでいれば、「猪熊葉子」という
翻訳者名が、要所要所で出てくるのは知っている。
ゴッデンやサトクリフ、ピアス、ノートン。
研究や翻訳をする人たちが、多くは大学に籍をおいていること、
白百合女子大学が児童文学関係者の灯台となっているらしきことも
うっすらとしか知らなかったから。
他に数人の、要となる人物も、ここで一気につながった。
その世界にかかわっている人たちには何でもないことだろうけど、
一般書の作家とちがって、児童書、翻訳となると情報は少ない。
本気で知りたいと思えば方法はあるとはいっても。
何によらず、体系的に指導を受けるという方法を取らない
学びは、いろいろと前後しながらインプットし、
全体像を獲得していくしかない。
猪熊葉子は、研究分野にはどうかと思う、といわれ続けながら
聖心女子大学で児童文学の研究に没頭していたという。
ついにオックスフォードへ留学し、『あの人』に師事した。
あの人、ビルボ・バギンズの生みの親、
トールキン教授にである。
これにはさすがに、周囲もびっくりしたという。
周囲はもちろん、「指輪物語」の作者だからではなく、
偉大で高名な学者としてのトールキン像にひれふしたのである。
当時すでに、トールキンはルイスと疎遠になりつつあったのか、
ナルニアを読めとはすすめられなかった、と書かれている。
当時のオックスフォードにすら、児童文学の講座はなかった、とも。
須賀敦子と同級生だった、という事実もまた、熱いものが走る。
ひとは深いところでつながっていて、そのつながりを思いがけなく目にするとき、
一瞬の虹を見た心地になる。
須賀敦子が子どものころ読んだ本について書いた
「遠い朝の本たち」を、ぜひ読みたい。
(マーズ)
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管理者:お天気猫や
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