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ルイスのキリスト教に関する著作を読む日本人は 研究者以外にはまずいないだろう。 「ナルニア国物語」のシリーズによって、 世界中の人々を魅了する児童文学作家、C・S・ルイス。 この本は、彼の生涯を、とりわけ子ども時代から少年期の体験や 心理描写にスポットを当てて描いた伝記。 中高生以上を対象にしているが、それでもやはり大人向けといった ほうが良い内容だと思う。
アイルランドのベルファストに生まれ、 10歳で母を亡くした少年は、父によって寄宿学校へ 送られる。つまずきつつも学問と教養による生き方を身に付け、 第一次大戦での過酷な従軍も体験しながら成人したルイス。 なぜか普通に結婚することなく、数十年にわたり、 戦死した友人の母親と妹の面倒を見続ける。 こうした事実は、これまでルイスの伝記を読んだことの ない私には、驚きと同時に励ましともなった。
やがてその関係が終わり、数年後、ケンブリッジへ移る。 そして、人生の最終章で、 アメリカからやってきた「ジョイ」─ルイスが少年時代から 呼びならわした、根源的な喜びを表す言葉、「ジョイ」─が、 現し身の女性となって、宙から降り立つかのように 彼の前にあらわれる。 映画にもなったラブストーリーが、そこで、 人生の最後の角で、ずっとルイスを待ちかまえていたのである。
その出会い以前に、少年時代から貫いてきた無神論を捨て、 キリスト教と和解し、神学に関する著作や講演によって不動の地位を 築いていたルイスだが、ジョイの登場によって、 神なる存在への思いはいっそう純化されていったのだろう。
ページを追って、孤高で深遠なルイスの魂をかいま見ながら、 どんな冒険に満ちた生涯よりも、根気よく潔い闘いのあとを 私たちはたどることができる。 人生のはじめに受けた傷や毒をわがものとし、 その後の人生すべてをかけて、 ほんとうの自分を取り戻してゆく姿を。
ルイスは18歳のとき、オクスフォードへ入学試験に訪れる。 そのときのエピソードが印象的だった。 駅を出て迷ってしまい、上品とはいえない通りをさまよった ルイスは、これが長年あこがれたオクスフォードなのか?と落胆する。 しかし、どうもおかしいと感じて振り返ったとき、
『遠くに息をのむほど美しい塔や尖塔の一群が見えた』
(引用)
というものである。
この出来事は、この本全体をあらわし、同時に
ルイスの生涯をも象徴しているように思えてならない。
『指輪物語』のJ・R・R・トールキンとは、
同じオクスフォードのフェローとして知り合い、
「インクリングス」という文芸クラブの主要メンバーとして
長期間活動をともにした。
指輪物語は、そのクラブで少しずつ朗読されたという。
幼くして母を亡くした(トールキンは父も失っているが、
ルイスも父との関係に悩み続けた)ふたりの境遇が、
よりいっそう結びつきを強めたともいえるのではないだろうか。
(マーズ)
『C・S・ルイスの秘密の国』 著者:アン・アーノット / 訳:中村妙子 / 出版社:すぐ書房
2002年02月27日(水) 『こころの処方箋』
2001年02月27日(火) 『アマリリス』
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管理者:お天気猫や
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