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猫やのお客さまからの推薦本。 このタイトルを知ってから、ずっと「えん」の意味をはかっていた。 本を読み始めてもすぐには明かされない。 ずっとひらがなで、なかばをすぎてやっと示される。 陰と陽のおりなす、人の世界のことわりとともに。
京の都、御所のなかにあるという「えんの松原」。 人の恨みが怨霊と化し、そこに巣くうという。 菅原道真はすでに怨霊の代表格として知れ渡り、 その後も怨霊のしわざは絶えない。
主人公の少年、音羽は両親を亡くし、縁者を頼り、 少女に変装して宮中の男子禁制エリアに住んでいる。 孤独な音羽がふとした機会に知り合った少年は、 お忍びの冒険に出た憲平親王だった。
その血筋を恨む怨霊にたたられ、 成人することはあるまいと世間に思われている憲平。 藤原氏の天下となった時代、零落した一族の末裔として 生きることを余儀なくされている音羽。 音羽と憲平は、身分を越えた信頼を結び、 えんの松原の怪と戦いはじめる。
こうしてあらすじだけを書くと単純なのだが、 ぶあつい塊を読み終えると、一筋縄ではいかない。 物語る言葉はシンプルでいて、上手い。 人物たちの魅力と歴史的背景のリアルさ、 小道具の巧みな配置。 魔と闘うことは重要なテーマだが、 血のかよった人物達のそれぞれが抱えている ふるえるような悩みを、押し付けず伝える。
人が人として生きられるのはなぜか。 他者の弱さを受けとめる力を、 身をもって教えてくれるのは誰か。 「えん」はなぜ、消されずそこにあるのか。 そうしたことを考えなくても、大人にはなれる。 しかし、 一生そうしたことから逃げるわけに いかないのも人生なのだから。 (マーズ)
『えんの松原』 著者:伊藤遊 / 絵:太田大八 / 出版社:福音館書店
2002年02月19日(火) 『ひと月の夏』
2001年02月19日(月) ☆植物たちの夢
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管理者:お天気猫や
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