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サスペンスなど、スリルいっぱいの小説が好きな一方で、 これといって何の事件も起こらない、 淡々とした静かな小説も大好きです。
静けさと、退屈のきわどい境界線。 ページをめくるごとに、心は安らぎ、 ときおり目を休めるのに、窓外の景色を見つめる。 そこには、はらはらするような秘密も、 ドキドキするような謎も、 心がざわつくようなものは、何もない。
オクスゴドビー、そこが物語の舞台。 イングランドの北部の田舎町。 教会の壁画の修復にやってきた青年のひと夏の物語。 美しい田園の村で、第一次世界大戦の深い傷は癒え、 新たな感傷とともに、青年はロンドンに帰っていく。
それだけの物語。 けれど、1920年のイングランドの田舎町は、 自然も人の心も、素朴で美しい。 退屈な日常かもしれないけれど、 退屈なこと、それは戦争の後では、 かけがえのないほどに贅沢な幸せだろう。
図書館で偶然見つけたこの本には、 美しいものがいっぱい詰まっていて、 その美しいものを、どうしても傍らに置きたくなり、 結局、注文してしまった。 私は本を読む時、気になるところや、 気に入った一文のあるページは、 ページを折ることにしている。 この本は、どこをとっても、 静かな豊かさに満ちているけれど、 (いちいち折っていたら、全ページにわたるだろう) 特に気に入ったところに、(自分の本でないから) 付箋を貼った。
でも、本当に何ということのない場面で、 何ということがないから、 忘れたくなくて、印を付ける。 ただ、リンゴの名前の響きがとても気に入ったとか、 そこに描写された紅茶がとても美味しそうだとか。 何でもないことなのに、素敵に響いてくる、 そういう、ささやかな贈り物に満ちた本。
リブストン・ピピン、ダーシー・スパイス、
コックス・オレンジ、コセット・レイン、
コスマン・リネット。全部、リンゴの名。
サラ・ヴァン・フリートは、バラの名。
ミセス・キーチのダスキー・ピンクのドレス。
ウェンズディル・チーズは、朝食に。
珠玉の美しい物語。 ページの隅々まで、言葉の端々まで。 自然の美しさは、言うにおよばず。 人の心も、その傷も、同じく、美しく愛おしい。(シィアル)
『ひと月の夏』著者:J・L・カー / 訳:小野寺健 / 出版社:白水Uブックス (ガーディアン賞受賞作)
※同名映画の原作 [ひと月の夏 / A Month in the Country] (1987/英) 監督:パット・オコナー 出演 コリン・ファース / ケネス・ブラナー
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管理者:お天気猫や
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