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人を不幸にするものは、何だろうと、 読み終わってしみじみと考える。 同時に、人生を豊かにするものや、 美しさについて、思いをめぐらせる。
少女・コリーは、決して幸せとはいえない。 貧しさ故に、13歳で嫁がざるを得ず、 しかも、その結婚もコリーの持参金目当てであり、 夫たる少年も、すぐに病死してしまい、未亡人となってしまう。 義母は、ずっとコリーにつらく当たり、 義父の死後、コリーを未亡人の町へと捨ててしまう。 ひどい話だ。 しかし、これは現代のインドを舞台にした物語。
どんな逆境にあっても、 コリーは自分の身を嘆いたり、 打ちのめされたりはしない。 意地悪な義母のためにひたむきに働いている。 コリーを支えているのは、 義理の妹シャンドラとの友情であり、キルト作りだ。 キルトは、美しい思い出や自由な思いなど、 コリーの心を写している。 やがて、シャンドラが嫁ぎ、去って行っても、 義父から文字を習ったコリーは、 タゴールの詩集と出会い、 誰も奪うことのできない大きな力を得る。
真に人を不幸にするのは、 状況ではなく、自分自身なのだと、 本を読みながらしみじみと感じる。 どんなに不幸な状況にあっても、 自分で自分を見捨てない限り、 自分の不幸を嘆き悲しまない限り、 幸せいっぱいとはいかなくても、 まだ、大丈夫なのだと。
そして、心に、誰にも奪うことのできない強さがある限り、 自分自身を嘆くことはない。 少女・コリーのように。 心の底から湧き上がってくる美しい思い。 それを巧みに縫い上げていく、巧みな指先。 文字を得て、自分のものとすることができたタゴールの詩の世界。 自由な思いを自分の心と言葉で、織り上げていくことができる。 何にも勝る、豊かさをコリーは持っていたのだった。
人によって幸せの価値観は違うけれど。 人間としての、「芯」は、しっかり持っていたいと思う。 心の中にある、今日までに培ってきた美しいものすべてが、 最後の最後には、力強く、人生を支えていくパワーの源になるのだと思う。
コリーが未亡人の町に捨てられてから、 物語は、俄然おもしろくなる。 コリーが幸せになる、その姿を見届けようと、 ページをめくるのももどかしい。
日頃、目にするインドとは違い、 インドの貧しい庶民たちの日常生活が垣間見られる。 しかし、そこには貧しさだけでなく、 自然の豊かさや、キルトやサリー作りの手仕事など、 人が生きている、日常の美しさを感じることができる。 身につまされるシーンも多々あるけれど、 ひたむきに生きて、やがて幸せを手にするコリーの姿に、 心が温かくなり、すがすがしい気持ちになる。
繰り返しになるけれど、『家なき鳥』を読み、 自分で自分を不幸にするような、 そんな生き方、心の持ち方だけはしてはいけないと、 あらためて、強く思った。 (シィアル)
『家なき鳥』 著者:グロリア・ウィーラン / 訳:代田 亜香子 / 出版社:白水社
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管理者:お天気猫や
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