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ずっと前から、読むべきだと思っていた。 主人公のチャーリー少年が、 甘い香りをかいで夢見ていたチョコレート工場のように、 私にとっても、気になり続けていた名作児童文学。 (姉妹篇の『ガラスのエレベーター宇宙にとびだす』 も読んでみたい) なぜか少年たちの探偵話かと思っていたのだが、 読んでみると、本当に、 不思議なチョコレート工場の秘密が明かされる、 という内容だったのだ。
しかもそれが、あまりにも正統的に常軌を逸した 徹底ぶりなので、改めて名作と呼ばれるゆえんに感じ入った。 正面から押してそこまでやるのか、と。 「では、どんな秘密のチョコレート工場か」と聞かれて たいていの人が想像する世界の天井を抜いているだろう。 (読めばわかるけれど、文字どおりの意味でも)
前半では、チャーリー少年の貧しい生活ぶりが激しく迫ってくる。 こんなことで、主人公なのに、どうなってしまうのだろう、 そう心配するくらい、貧乏である。 読んでるこちらが落ち込んでしまう、 すべてがどうしようもなく悪循環の袋小路的貧乏家族。 不況とはいえ、今の日本に、板チョコ1枚を、誕生日にしか 食べられない子はまずいない。 おなかが空いて倒れないために、運動を極力避けている子も。
チャーリー少年は、そんな暮らしのなかで、 あこがれをつのらせる。 甘い香りをまきちらしている、ワンカのチョコレート工場。 毎日前を通りながら、本物を食べるのは、年にたったの一度だけ。 そこはいったい、どんな夢の工場なんだろう?
そこへ、突然のチャンスが訪れる。 空前絶後のチョコレート工場へ、5人の子どもが招待 されることになったのだ。 誰も出入りする者がいないにもかかわらず、 この町にある、巨大なチョコレート工場は 日夜稼働しているという。 その秘密とは? チャーリー少年はそこで何を見るのか?
そういえば、この物語を読みながら、 しりあがり寿の絵を思い浮かべていた。 チャーリー少年のやることなすこと、 床で勝利のダンスを踊るチャーリー少年のお祖父さんなど、 まさにしりあがり寿的キャラの世界である。 (そういう意味では、しりあがりファンにもおすすめ)
もしも。 もし、子どものころにこのチョコレート工場を見ていたら、 私は、何度も何度も、甘い期待とともに、 この本を開いたにちがいない。 銀紙を破って板チョコを食べるときのわくわくした気持ちも、 またちがった興奮をともなっていたことだろう。 そういう子どもだった人たちを、うらやましく思う。 幼くしてこの本に出会えた人たちを。
作者は話の終わりで、子どもが本の世界に出会うすばらしさを 強く訴えている。 おいしいお菓子を味わうように、 お話を読んだり聞いたりしてこころゆくまで味わいながら、 子どもは大人になるべきなのだ。 (マーズ)
『チョコレート工場の秘密』 著者:ロアルド・ダール / 訳:田村隆一 / 出版社:評論社(児童図書館文学の部屋/てのり文庫)
2001年12月05日(水) 『不眠症』(その2)
2000年12月05日(火) 『誰か「戦前」を知らないか』
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管理者:お天気猫や
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