HOME*お天気猫や > 夢の図書館本館 > 夢の図書館新館

夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年12月05日(水) --

TOP:夢の図書館新館全ての本

『不眠症』(その2)

どこから見ても老人であるラルフとロイスは、 オーラを感じることができるようになり、 人の死の秘密を覗き見た。 下巻ではさらにその向こうに待ち受ける 若者顔負けの冒険へとつき進んでゆく。 まさにまっしぐらに。

ゆっくりゆっくり進む前半と、後半のスピード感、 曲がり角の先にあるエピローグなどは、 キングファンならおなじみのものなのだろう。 私は数冊しか読んだことがないので、 キングらしさについては多くを語れない。

しかし、上巻での彼らは、弱くても落ち着いており、 毎日少しずつ眠れなくなっていくという異常事態をも 老人にありがちな不眠の延長と考えれば、 この上巻に描かれた老人たちの日常こそ、 1947年生まれで老境にさしかかろうというキングが 今にして想う、近未来なのではないだろうか。 デリーのような町には、普通の世界と、老人たちの世界が 存在しているという思いが、日々を暮らしながら キングのなかにも芽生えているのだろう。

『ハリー・ポッター』では「マグル」と呼ばれ、 『不眠症』では「ショートタイマー」と呼ばれる人間。 魔法使いや高次の世界から見れば、なんとささやかで短い 火花のような生命。その生命にすがりつく人間。

上巻にあるような、老人のこんなつぶやきに、 キングのショートタイマーとしての自負が、かいま見える。

"ほら、爪を隠した内気な鷹が、ときどき田舎にいるだろうが。
・・中略・・
天才の大半は、小さな町で世に知られず暮らしている教師たちだね。"
(本文より引用)

いわば異次元、生死を越えた世界といってもよいほどの 超常現象が起こる謎をテーマにしながら、 あくまで「ぽんこつ同盟」の二人に主役を張らせた キングの思いは、長く生きていればやがてわが身に重なるだろう。 どんなすばらしい過去よりも、 今このときが、一番よいものだと思えるように、 ショートタイマーは本来、生まれついているのだと。 だからこそ、そう思えないことはつらいのだと。 (マーズ)


『不眠症』(上・下) 著者:スティーヴン・キング / 訳:芝山幹郎 / 出版社:文藝春秋

2000年12月05日(火) 『誰か「戦前」を知らないか』

>> 前の本蔵書一覧 (TOP Page)次の本 <<


ご感想をどうぞ。



Myエンピツ追加

管理者:お天気猫や
お天気猫や
夢図書[ブックトーク] メルマガ[Tea Rose Cafe] 季節[ハロウィーン] [クリスマス]

Copyright (C) otenkinekoya 1998-2006 All rights reserved.