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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2002年09月11日(水) --

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『点子ちゃんとアントン』

「マッチは、マッチはいかがです?」 あわれっぽく物乞いのマネをする点子ちゃんは、 ベルリンに住む上流階級の「社長」の一人娘。

ケストナーの主人公エーミールと並んで有名な 点子ちゃん。この不思議な名前、ずっと気になっていた。 小学校のころ、エーミールは読んでいるけれど、 内容はすっかり忘れている。 点子ちゃんの方は、たぶん初めて。

ドイツ語の「点」という意味を女の子風にもじった名前なので、 「点子ちゃん」という訳は、ある意味とても正しい。 これは、生まれてからしばらく、とっても小さかったから ついたあだなで、本名はルイーゼというお嬢様風の名前だ。 そもそも、ケストナーの登場人物は、名を体で表す あだなのような名前が多いらしい。 まあ、この本を読む子どもたちにとっては、 ドイツの街に日本語みたいなの名前の子がいたって、 どうってことはないだろう。

いそがしい父母から養育係にまかされている点子ちゃんが 友達に選んだ子は、貧乏だけど母親思いの少年、アントン。 犬のピーフケ(これも面白い名前)と一緒に、 あやうい冒険の網をかいくぐりながら流されてゆく点子ちゃん。 話をすればとっても知恵がまわって、 ユニークで面白い点子ちゃんだけど、 大人の世界の裏表は、さすがにちょっと読みきれない。 深いところへ流されても、足がとどかないことに気づかない。 でも、病気のお母さんを抱えて苦労をしているアントン少年には、 そこらへんが見えてしまう。 だからこそ友達なんだろう。

アントン少年が点子ちゃんの前で、簡単な料理をする場面がある。 お手伝いさんのいる点子ちゃんは料理をしたことがないので、 なにがどうなっているか、さっぱりわからない。 でも、アントンは淡々と料理しながら、ちょっとしたコツを 点子ちゃんにも教えてあげる。

この場面を読んでいると、小学校のころのことを思い出す。 近所の幼なじみの女の子が、学校から帰って、 にわとりのエサをつくっているのを見たときのこと。 私はぜんぜん包丁がにぎれないのに、その子は、 ざくざくっと、菜切り包丁で菜っ葉を切って、 穀類とまぜ、手際よく緑色のエサをつくった。 それは彼女の仕事で、そういうお手伝いをもらってなかった私は、 かなりうらやましくなったのだった。

アントン少年には、ケストナー自身の幼い日々が 映し出されているようである。解説にもそう書かれているが、 この細やかな描写は、実際に体験したことがある世界からの 声を思わされる。

章のあいまには、ケストナー自身の言葉、 「立ち止まって考えたこと」が挿入されている。 あれこれと教育的な内容だけど、 ナチスが台頭していた時世を思えばやむないことで、 それだけ押し迫った思いがあったのだろう。 (マーズ)


『点子ちゃんとアントン』 著者:エーリヒ・ケストナー / 訳:池田香代子 / 出版社:岩波少年文庫

2001年09月11日(火) 『星虫』

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