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新潮社のファンタジー大賞の最終選考に残った作品で、 10年ほど前に、新潮社からファンタジーノベルズとして 出版されていた本だという。 絶版後、長らく再版が待たれていたのだそうだ。 あまり、日本のファンタジーやSFは読まないので、 この『星虫』のことは知らなかった。
ネットでファンタジーか何かを検索していて、 偶然ひっかかった掲示板の書き込みで初めて知ったのだ。 知らなかったというと、 私は「2チャンネル」なるものを最近まで知らなかった。 知ったといっても、 「何だかとても大変な(掲示板がある)ところらしい。」 という漠とした理解しかできていない。 その「2チャンネル」の「癒し系のSFなどを紹介してほしい」 というテーマの書き込みが検索でHITしたのだった。
そこにあげられたかなりの数のタイトルは、 懐かしくもあり、 また最近はSFを読んでいなかったので、 とても新鮮であった。 書店で手に入った本もあれば、 その掲示板で取り上げられた本の中には 絶版になったものも多く、 どうしても読みたくてネット古書店で探しだし、 購入したものもある。
書店で手に入ったもののひとつが『星虫』だった。 タイトルにも違和感があったし、 あまり日本産SFは読まないし、 表紙の女の子のイラストもちょっと気恥ずかしく、 しばらく迷ってしまった。
無数の光る物体が空から降ってきて、 世界の8割の人間の額に吸着した。 人間を宿主とする「星虫」と高校生・友美の7日間の物語である。 最初良好な関係であった「星虫」と人間の関係が 7日間の「星虫」の成長と共にどんどんと変化していく。 その地球規模の騒動の中で友美は地球や人類の過去や未来、 この「星虫」の意味について思い悩み、 そしてついに、理解したのであった。
とてもいい本だと思う。 多くの人がこの本について語るように、 さわやかな読後感の本でもある。 人類と地球の関係。 星虫と宿主人間との関係。 環境問題や自己犠牲の精神などが語られていく。
本には「旬」があると思う。 「旬」は、本にも読み手にも当てはまると思う。 この本に対する、私の方の「旬」が、過ぎてしまっていたのだ。 そう、この本が出たとき、10年前に読んでいたら、 ずいぶんと印象が変わっていただろう。 (そもそも私自身がこの本のターゲットではない。 むしろ、そう素直にいうべきなのだろうが。) 出会いのタイミング・時期の問題ともいえるだろう。
今、マーズは代表的な児童書、 児童書のベーシックを意識的に読み続けている。 大人になった今、大人の目で、 児童書の傑作にふれるということも大切だ。 しかし、その一方では、やはり、今感じている思い、 恩田陸の『六番目の小夜子』や『ネバーランド』等を 読んだときのように、どんなにいい本に出会っても、 もう、大人になりすぎたな、そういう思いもつきまとう。
いい本だと、理解できることと、 いい本に触れて、心から共感したり、 感動したりできることは、明らかに、違う。
若いときにしか味わうことのできない、 感動がある。 もちろん。 年を経て、大人になったからこそ得ることのできる、 そういう感動だってある。 いつだって、いくつになったって、 私たちの味わうことのできる感動は無限にある。
それでも、若さという特権は、 今を生きる若者だけのものだ。 だから、子供たち、若い人たちに、 たくさん本を読んでもらいたい。 無限の想像力の第一歩は、 やはり、一冊の本から始まると思うから。
私は『星虫』を読んで、そういうことを考えた。 本そのものに感激するよりも、 中高生がこの本を読むと、 いろいろなことについて考えることができるし、 だからこそ、爽快なラストに感動できるのだろうなと、 余分なことを考えてしまう分、 本に引き込まれることができないのである。
それでも、普段と系統の違うものを読んで、新鮮であった。
マーズのように。 私は私で、しばらく、SFやファンタジーのベーシックを 集中的に読んでみたいと、そんなことも考えている。 『星虫』は、そう思うきっかけにもなったのである。(シィアル)
『星虫』 著者:岩本隆雄 / 出版社:ソノラマ文庫
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管理者:お天気猫や
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