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暑いので北海道に行きたいな。 そういえば私は函館に行った事がまだありません。 函館といえば五稜郭。幕軍残党最後の抵抗の地。 私は幕末史には割と興味があるほうですが 土地柄視点が倒幕派で、佐幕派にはあまり馴染みがありません。
うちの曾曾祖父は藩吏でありながら藩命に背いて 何喰わぬ顔でいわゆる勤王の志士に資金援助をしていたそうです。 女子供が追い払われた座敷を祖母の大伯母がこっそり覗き見すると、 旅支度の若者達が談じ込んでおり、彼らはその足で脱藩したといいます。 彼女が襖の間から見た脱藩浪士の何人かは京で斬られたかもしれません。
新選組に。
『燃えよ剣』は新選組副長・土方歳三の生涯の物語です。 私は登場人物に感情移入して流れに乗る小説の読み方が苦手なので、 時代に逆らう人生にどうやって入りこめばいいかまず思案しました。 解説を見ると、『燃えよ剣』は司馬遼太郎の初期代表作 『竜馬がゆく』と同時期に連載されたとあります。
あ、これだ。 同じ時代の同世代を同時に描くとしたら、 作家は必ず二人を正反対の位置に置くに違いない。 随分昔の事ですが、『竜馬がゆく』の方は学生時代に読みました。 その時、司馬先生が書き残した部分があるような気がして、 たぶん、他の本に書いたんだろうなと思った憶えがあります。 きっと、ここにあるんだ。 実際には30センチと離れていないところに居ながら、 空をゆくカモメからは見えない、波の下の鮫の見る世界が。
冒頭をめくってみると、土方が竜馬と同じような行動をする場面が出て来ます。 竜馬が友人達とわいわいやってた事を、土方は誰にも押し隠してこっそりやる。 美男ではないけれどなんとも言えぬ愛嬌で人に親しまれる「陽」の竜馬と、 美男だけれど無愛想で怖くて取っ付きが悪い「陰」の土方。 それぞれが持つ余人にはない天賦の才は、 方や外の世界に向けて拡がるネットワーク作りで時代を動かし、 方や閉ざされ研ぎ澄まされた最強集団を生み出し時代に逆らって突出する。 この二編はある意味、セットなのでしょう。
新選組といえば組長・近藤勇。 『燃えよ剣』の土方視点では英雄・近藤は実に好人物だけれど、 分りもしない政治なんかに首突っ込まなきゃいいのに、と惜しむ感じ、 一般的には血を吐く悲運の美剣士のイメージの強い沖田総司は 『燃えよ剣』では「神仏のつかわす童子」、つまりまあ、「天使」、 透明感のある可愛い青年の姿で描かれています。 この二人の人柄で、峻厳な新選組も一見ほのぼのとしたファミリーのようです。 もっとも、離れようとしたら例外なく斬られる鉄の掟のファミリーですが。
副長・土方歳三は。
前述の、脱藩浪士を覗き見た大伯母の話をしてくれた 祖母の実家には銘刀があったそうです。 重くて古臭くて飾り気のないその刀が祖母は嫌いでした。 異様な暗さを漂わせた、人を斬るためだけの道具。 目のある者達はその銘刀の気迫を美しいと賞賛しました。
土方はそんな刀のような。(ナルシア)
『燃えよ剣』上・下 著者:司馬遼太郎 / 出版社:新潮文庫 『竜馬がゆく』1〜8 著者:司馬遼太郎 / 出版社:文春文庫
2001年08月16日(木) 『こわれた腕環─ゲド戦記(2)』
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管理者:お天気猫や
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