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第一巻であれほど苦しい旅を共にした魔法使い、 ゲドが出てくるまでに、90ページも待たねばならない! 本は222ページしかないのに! なんとグウィンは周到なのだろう。
この物語の主人公は、アルハという15歳の巫女。 魔法使いの暮らすアースシーとはまた異なる世界、 アチュアンの神殿で墓所を守る、 闇に使える僕として選ばれた少女である。 ダライ・ラマの転生を思わせるような、巫女の輪廻。 途中まで、もしやゲドはほとんど出てこないのだろうか、 とまで思ったのだが、ある一点に期待していた。 それは、ゲドが魔法のあかりを持っていること。
やはりゲドはいた。
私たちの時間ではつい昨日、影との戦いに勝った
年若きゲドが、本のなかの時間では、少し時間を置いて、
もはや若すぎはせず、相当の地位を得ながら
なお定住せず、冒険の途上にあることを知る。
大巫女として権力を持ちながら実質は囚われ人のアルハ、 彼女の無知と高慢さは、ゲドにとって そのまま少年時代の自分を突きつけられでもしたような 出会いだったのではないだろうか。
話がそれるが、地下にとらわれる黒い人、という構想は 戦時中、黒人兵を捕虜にした人里離れた村で、 監視役の少年の視点から描いた大江健三郎の短編「飼育」と 奇妙に通じるものがあり、つい発表年を比べる。 大江健三郎がだいぶ先であった(安堵)。
ゲドの物語に戻ろう。 タイトルの「こわれた腕環」については、第一巻ですでに 登場し、強い磁力を発している宝物なので、 巫女と魔法使いの続編をグウィンは予定していたのだと 思うが、いやはや、こんなにゲドにしてやられるとは 思いもしなかった。 ゲドという魔法使いは、そういうヤツなのかもしれないが。 この物語で彼が主人公アルハの人生の導き役であっても、 それを補って余りある言葉をゲドは口にする。
二つに割れた腕輪を合わせる場面。 あんなことを言われたら、 どんな女性でも答えはひとつである(笑)。(マーズ)
『こわれた腕環─ゲド戦記(2)』 著者:アーシュラ・K・ル・グウィン / 訳:清水真砂子 / 出版社:岩波書店
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管理者:お天気猫や
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