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昔、ルルーの『オペラ座の怪人』を読んだ時は まず第一にオペラ座をよく知らないせいもあって、 情景があまりぴんときませんでした。 しかもなんといっても明治43年の作品です。 でも案外細かいトリックなどは覚えているので、 不可解な出来事を描写しておいて、 あとで逐一合理的な説明をつける書き方に気を取られて 全体の構成を見ていなかったのかもしれません。
それに、ヒロインのクリスティーヌ(フランス名)の行動が 今ひとつ理解できなかった事が物語に入り込む妨げになりました。 一体何やってんだこの娘は!と気分はほとんど振り回される恋人ラウル君。
それが、視点をファントムとクリスティーン二人の関係に絞り、 筋をシンプルにして目にも彩なる舞台と音楽を付けたミュージカル 『ファントム・オブ・ジ・オペラ』を見て、 やっとどういう話か理解できました。
そこで原作を読むと、場面の順番などは変更されて 簡略化されていますが、基本的に舞台は原作通りに進行しています。 コミカルな支配人コンビや謹厳なジリイ夫人などのキャラクターもそのまま。
ああ、そういう事だったのね。 不思議な声を「音楽の天使」と無邪気に信じ込むクリスティーヌは、 超常的なものを信じやすい特殊な環境で育てられていました。 怪人の正体を知ってから後の行動は「恐怖」と「憐憫」に支配されています。 しかし、ラウル君や読者から見ると意味不明の行動に見える。 なんだ、ちゃんと原作に細かく理由が書かれていたんじゃないですか。 しかも、笑ったのが中盤のオペラ座の屋根でクリスティーヌがラウルに 怪人の秘密を語った場面の最後。
「もしエリックが美男子だったら、君はぼくを愛していたかい、クリスティーヌ?」
「いやな人ね、なぜ運命を試したりするの? あたしが罪を隠すように良心の底に隠している事を、なぜ尋ねたりするの?」
あのねえ、エリックの顔が良かったら音楽の才のない君に 勝ち目なんかないだろう、聞くなよラウル! しかし、原作ではクリスティーヌもぬけぬけと言ってのけていたんですね。 実に素直な娘です。
怪人と歌姫が共に音楽を奏でる時、地上の全てのものは悉く意味を失う。 文章で読んでも雰囲気が想像しにくかったのですが、ミュージカルを見て納得。
ミュージカルで歌われる曲は全て印象的なオリジナル曲ですが、
原作はもちろん名作オペラの数々が用いられています。
下品だけれど第一級の歌手カルロッタの演じる
『夜の女王』や『エルヴィール』のアリア、
死者の奏でるヴァイオリン『ラザロの復活』、
クリスティーヌと怪人が地底で歌う『オセロ』のデュエット、
そしてクリスティーヌが舞台で体現する『マルガレーテ』。
天上のものにせよ、地獄のものにせよ、音楽は理性を無力にする。(ナルシア)
『オペラ座の怪人』 著者:ガストン・ルルー / 出版社:創元推理文庫
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管理者:お天気猫や
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