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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年07月25日(水) --

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『死の接吻』

名作と言われる古典推理小説は 内容はすっかり忘れているものの、 子供の頃かなり読んだと思っています。 父が本格ファンだったので家の本棚は クイーンやカーに埋め尽されていましたから。 でもこの1953年のアメリカ探偵作家クラブ賞受賞作、 現在においてもミステリ・ベストテンに必ず数えられる 古典の傑作は家に無くて読んだ事がありませんでした。
何故かって?
サスペンス物なので、トリック重視の父の趣味には 合わなかったんでしょう(笑)。

先日ハヤカワのフェアで書店に平積みになっていて、 やっと読む機会にありつきました。 主人公は南方で日本兵と闘い心の冷えた復員兵。 自らの美貌と知能を頼りにのしあがろうとする 『赤と黒』のジュリアン・ソレルタイプ、 ターゲットは大企業の社長令嬢、 終戦直後のアメリカで青年の野心が巻き起こす 恐るべき犯罪。

なんとなくセピア色の古風な映画のトーンを 自分でイメージしながら読み始めたのですが、 すぐに頭の中の映像は現代風にさし変わってしまいました。 実は半世紀前の裕福な家庭の子弟の通うキャンパス・ライフが 現在の日本の大学生活と大差ないのです。 出版当時読んだ日本人はその風俗に驚いたでしょうが、 私達はかえってリアリティを持って読む事ができます。 青年の野心とお嬢様の不用意さの生み出すドラマも 過去にも現在にも通用する説得力がありますし、 人物の細やかな仕種が生み出す不安感や ショックを与える構成の上手さも申し分ありません。 これがやはり「古典」として残る作品の底力なのでしょう。

全ての終幕となる舞台が「◯◯◯」というのは この小説から生まれたアイディアなのでしょうか。 だとしたらこの舞台が後世の映画に与えた影響を考えると もうそれだけで一生分の著作権料を貰ってもいいのかも。(ナルシア)


『死の接吻』 著者:アイラ・レヴィン / 出版社:ハヤカワ文庫

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