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夢の図書館新館

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-- 2002年07月23日(火) --

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『耳部長』

☆ナンシー関さんの、早すぎる死。

故・ナンシー関さんの本は、3・4冊くらいで、 そんなにたくさん読んでいるわけではないけれど、 『週刊朝日』『週刊文春』『広告批評』など、 週刊誌や月刊誌のコラムで、しょっちゅう目にしていた。 もちろん、他にもたくさん連載を抱えていただろうけど。 買うにしても、立ち読みするにしても、美容院や病院の待合いで 読むにしても、必ず目を通していた。 好き嫌い、自分の考えをはっきり述べるナンシーさんのコラムは 小気味よかった。 職場などで、あたりさわりのないよう、どうとでもとれるよう、 曖昧な物言いをすることも多いせいか、痛快だった。

この『耳部長』は、週刊朝日の「小耳にはさもう」の第4弾目の単行本。 65人の芸能関係の人々がナンシーさんの俎上に。 1999年に発行されたものなので、早くも、中味は懐かしめ。 しみじみと、世の移ろいを感じたりもする。 色褪せていることこそが、ナンシーさんが常に「瞬間」を語っていた証でも あるんだろうなと、そんなことを思いながら読んだ。 ナンシーさんが気にしていたそれぞれの芸能人の「行く末」を、 そのご本人が、見詰めること叶わなかったのだと思うと、 感傷的になってしまう。

ナンシーさんが多忙だったことで、最近では、そんなに頻繁に 更新されてはいなかったけれど、ときおり、ナンシーさんのWEBサイトも 覗いていた。多分、最後の記事は、5/1に記された『耳のこり』発売 &「奇跡の詩人」であったと思う。そのコラムを読んだばかりだったので、 ナンシーさんの死は、「唐突」で、ショックを受けた。 同世代であるせいか、その死は早すぎて、ひとごととは思えずに。

ナンシーさんのコラムは辛辣だ。
その時のターゲットの似顔絵の消しゴム版画とともに、芸能人やテレビ番組への批評が1Pに収められていた。辛口も辛口で、イラストにも毒があるし、 コメントも「悪口」と言ってもいいかもしれない。

けれど、私がしみじみ凄いなあと思ったのは、その「悪口」が、 決して感情的な悪口ではなく、整然と、なぜ、ナンシーさんがそう思うのか、 限られたスペースの中できちんと述べられている点。 「何となく嫌だ」とか、「どうしてだか大嫌いだ」という風に、 感情の赴くままに、誰かを非難しているわけではなくて。 (とは言え、ばっさり斬られる方は、たまったもんじゃないだろうけど) テレビや芸能人を見ていて、誰もが時に感じる、自分自身でも説明できない もやもやをしたものを、どうでもいいようなことなんだけど、 ナンシーさんは、理路整然と代弁してくれていた。

ああ、そうなんだと、ナンシーさんに説明されて初めて、自分の 感じていた嫌悪感だったり、釈然としない気持だったり、 違和感やら滑稽さだったりを、曖昧模糊とした感情ではなく、 研ぎ澄まされた言葉で理解し、「そうだったのか」と、 やっと腑に落ちたりしていた。

でも、もう、新しいもやもやを解きほぐしてはもらえない。 井戸端会議のように、ちょっと意地悪な悪口をこっそり楽しむことも できない。お行儀は悪いかもしれないけれど、ささやかなストレス発散。 別に、どうでもいいことなんだけど。テレビのことも芸能人のことも。 とはいっても…。

文章が「過去形」になってしまうことは、悲しい。 辛口のコメントをした後の、「フッ」と自分を自嘲するような 乾きも好きだった。(シィアル)

付記:
週刊朝日に、ナンシーさんが、週刊文春にも連載を持つことになった時の エピソードが紹介されていた。私自身、競合する週刊誌両方に、ナンシーさんのコラムが載っているのは不思議だった。ライバル誌に新しいコラムを担当することになったが、ナンシーさんは、週刊朝日側に義理を立て、消しゴム版画の大きさを若干違えた(もちろん朝日側が大きい。)という話。 全然気付かなかった。知ってましたか?


『耳部長』 著者:ナンシー関 / 出版社:朝日新聞社(文庫版もあり)
※1999年に発行されたものなので、話題がちょっと古めです。

2002年の本は、『秘宝耳』(朝日文庫・2002/08出版)/
『耳のこり』(朝日新聞社・2002/05出版)/
『何が何だか』(角川文庫・2002/04出版) /
『堤防決壊』(文春文庫・2002/03出版)

2001年07月23日(月) ☆ヤンソンさんが教えてくれたもの。

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