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「やっ、こいつは魂を持っていやがる」 と思うものが、陶器にはあるそうだ。 (22P"ほんもの"とは何か?/白州正子談より) 『韋駄天のお正』という綽名が面目を 際わ立てるセリフ。
彼女が他界したのち、住み慣れた自宅は 資料館・ギャラリーとして、 一般に公開されている(2月24日まではオープニング展を開催)。
この本は、旧白州邸「武相荘」(ぶあいそう)の オフィシャルブック。 白州正子の生涯をたどる数々の写真とエピソード、 果ては屋根裏で眠りこけていた自筆の油彩画まで 密度も濃く編集されている。
家事をする義務のない生まれとはいえ、 本来不器用だったと家族に言わしめる名文家は、 人が作ったものを食べることへの おおいなるこだわりに終始した人でもあったと。 「どこそこの何」が一番、という思い込み。 そういうこだわりが100あれば百、1000あれば千の "ほんもの"と"満足"を知ることになるのか。
一行のキャプションでのみ紹介された、 愛犬とのモノクロ写真があった。 奈々丸という白犬を愛しげになでる81歳の白州正子。 ネーミングもすばらしくマッチしているが、 まさに白州正子にマッチした犬に見える。 おそらく雑種犬と思われるが、 すらっと伸びた痩せぎすの体型には、西洋の犬も 混じるのか、のびのびとした四肢をしている。 面長で、眼光するどく、気品あり。
似ている。 飼い主と犬は、どうしてこうも似てしまうのだろう。 白犬:白州という程度ではマッチ度としては低いが、 しつけや食事はともかく、西洋風の骨格は生まれつきのはず。 奈々丸は西洋と東洋の犬である。 白州正子が西洋と東洋をともに観た人であったように。 まして、雑種であればおそらく、 「どこそこの何」と念じて探したわけでもなく いつかしらに、避けられない偶然という名の必然でもって 転がり込んできたものにちがいない(それはどこの犬の話だ?)。
この写真、奈々丸は飼い主そっくりの眼光に 黒くてききそうな鼻、歯並びの良さそうな口、 賢げな耳はきりっと尖り、前を見ている。 飼い主の手は、首の後ろ、肩の中央(一番気持ちよいところ)に 置かれている。 よく見ると犬ずわり(横ずわり)に なっているのも微笑ましい。 あらゆる動物のなかで、人間にもっとも 似ている(おサルよりも)といわれる犬が こうも飼い主に似てしまう理由は。 それは生活習慣だけではないと、つねづね 思っている。 色即是空・空即是色。 (マーズ)
『白州正子"ほんもの"の生活』 白州正子・青柳恵介・赤瀬川原平・前登志夫他共著 / 出版社:新潮社とんぼの本
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管理者:お天気猫や
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