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夕方からまた少しパワーを出して、 部屋の整理を深夜まで延々とつづけていたら、 ずっと行方不明だった新美南吉の文庫本が 棚の奥から発掘された。 古いので、すっかり表紙はシミている。
南吉の全集が大日本図書から出ていて、 そのなかに日記も収録されているのだが、 これがなかなか面白い。 文学的な面白さももちろんあるのだろう。 でも、私にとっては、作品そのものしか知らなかった作家の 人間性に触れる思いで、それにしてもこれは…と 首をかしげたくなるくらい「人間的な」記述もまた愉しめた。
たとえば、
物語『巨男』脱稿。 弟に読んで聞かせたら、終に至って、涙を流しをった。 俺の作品にも値がついて来たと云ふもの。
とか、
ひそひそと泣く子があった。私はうれしくなった。 私の頭が作りあげた話が、子供の美しい涙に価するのが。
といった具合。 ここまで本音を書いていいものか。 しかし…ちょっと待て、と年を確認する。 1929年。 ということは、この日記を書いた南吉は、 16歳ということになるではないか。
自分の16歳を思えば、恥ずかしさに 消え入りそうになる。 あの頃しでかした、とても自分とは思えないような 恥ずかしい行為や思い込みが、脳裏をよぎる。 その頃の思い出につながる証拠を捨てても、 過去を清算したことにはならない。
作家や有名人たるものは、 いかに早逝しようとも(南吉は30歳で他界)、 自分の日記が人目にふれることを じゅうぶん意識しているべきだとつくづく思わされる。 あるいは、公開前には信頼できる人物に選別してもらうよう 遺言しておくべきだと。 あとから悔やんでも遅いのである。 すべてさらけ出します、という覚悟があれば 話は別だけれど。(マーズ)
『校定 新美南吉全集』 著者:新美南吉 / 出版社:大日本図書
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管理者:お天気猫や
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