スナックおのれ
毛。



 自然に産む(1)

助産院で第二子を出産した。まるで親戚の家のような場所で、それこそ台所を改装したような分娩室で出産。病室(病気じゃないのでただしくは「病室」ではないのだろう)も、大きな冷蔵庫が置いてある以外は普通の部屋。八畳一間、白い布ばりのソファに、90年代に流行った小さなガラステーブル、籐の間仕切り、錆びた物干し台。交通量の多い幹線道路に向かう掃き出し窓は大きく、産婦人科の小さな窓から見える風景と比べて、そこが同じ世界であるという実感がある。

第一子を出産したときの産婦人科での思い出は、どうも別世界のように感じる。少し前まで妊婦だった母たちは、常時寝間着でぎこちなく歩き回り(実際、出産直後の体の骨は、妊娠前の場所に戻ろうとガタついている)、寝不足の目はつぶることを忘れたようにぼんやりとただ見開かれている。病院の壁は、まだ無防備な母と子を守る一方、隔離しているようにも感じられた。

今回の入院中、出産が1件あった。隣室の母は昼前にひとりでやってきて、12時くらいに私の部屋の前の「台所の分娩室」に入っていった。私は、防音など特別な機能のないドアひとつ隔てて他人の出産に立ち会ったことになる。しかし、私はそれを沈痛な面持ちで待っていたわけではなく、その前日同様、明るい平日の昼のテレビを見ながら、昼食のから揚げを食べて、ただ過ごしていた。時々、助産師先生の励ましと叱咤、指示がくぐもって聞こえ、極限を耐えて鶏を絞め殺すような悲痛な声があがる。私の部屋の大きな掃き出し窓からは、常に騒々しい車の音が遠くから聞こえ、分娩室の奥にある「本当の台所」からは、助産院で働く女性たちの昼食を囲む明るい談笑が聞こえた。すべてが別次元の出来事にも思える音だったが、実は全部同じ場所にあると確信できた。<つづく>

2014年09月12日(金)
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