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夢の図書館新館

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-- 2014年12月13日(土) --

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『猿の左手』

わたしは6さいのとき
とてもこわいおはなしをよみました。

せかいでいちばんこわいおはなしだとおもいました。

それからわたしはもっとこわいおはなしをよみたくて
つぎからつぎへいくつもいくつもなんねんもなんねんも

──何百話も何十年も怪奇な小説を読み続け

それでもやっぱりあの
「さるのて」というみじかいおはなしが
せかいでいちばんこわいおはなしだとおもいました。


タイトルを聞いただけでぞっとした方も多かったでしょう。
六歳の私が読んだのは怪奇小説の古典中の古典、
ジェイコブズの『猿の手』だったのです。
三つの願いが思いがけない形でかなえられる、
あの恐怖の物語です。

六歳の私は怖い話も好きでしたが、
同時に「めいたんてい」が「こわいじけん」の
「なぞとき」をする話も大好きでした。

超自然としか思えない出来事に
震え上がる怪奇小説のミステリー。
超自然としか思えない出来事に
合理的な解釈を与える推理小説、ミステリ。
長年、ミステリアスな謎に浸りながら、
一方で謎を解くのを楽しんできました。

それにしたって、こんな事は思いもよりませんでしたよ。
怪奇小説の傑作『猿の手』を名探偵が「なぞとき」してしまうなんて。


「そう。最後の願い事が間に合うたからな。それまではドアの向こうに──」
「アリス。お前、何か解釈を間違ってないか?」
彼は持ち上げかけた右手を虚空で止め、怪訝そうにこちらを見ている。解釈を間違っていないか、だと?こんなストレートな物語を、どうやったら誤読できるというのか。
『猿の左手』 著:有栖川有栖


本当に、何を考えているのだ、
英都大学社会学部・助‥‥じゃない、准教授、
臨床犯罪学者と呼ばれた名探偵、火村英夫先生!

いや、この場合、とんでもないのは作者ですね。
ほんまに、何考えてんねん、
和製エラリー・クイーンと呼ばれた本格推理作家、
アリス‥‥じゃない、有栖川有栖先生っ!!

これだからミステリ者は油断なりません。
気持よくお馴染みのシリーズものを読んでいて、
小説そのもののアイデアでもトリックでもなく、
こんな方角からびっくりさせられたのは初めてです!

とりあえず、『猿の手』を傑作ホラー小説だと確信している方は
火村とアリスの『猿の手』問答を一読してみてください。
古典の価値はそのままに、別視点から作品を「解読」する事ができます。

『妃は船を沈める』 (著:有栖川有栖 光文社 カッパ・ノベルス 光文社文庫) 収録の『猿の左手』中にあります。

「めいたんてい」がおしえてくれても
それでもやっぱりあの「さるのて」というみじかいおはなしは
せかいでいちばんこわいおはなしだとおもいます。(ナルシア)


『猿の手』(著:W・W・ジェイコブズ)
怪奇小説傑作集 1 英米編 1 (創元推理文庫) 等に収録されています。

2005年12月13日(火) 『アナベル・ドールの冒険』
2004年12月13日(月) 『おもいでのクリスマスツリー』
2001年12月13日(木) 『骨と沈黙』
2000年12月13日(水) 『私のしあわせ図鑑』

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