(その6) 2004年09月23日(木)
うち寄せてくるのは 結び合わせるためなのだ あなたの見た昨日 その幾千の腕がみた、いつかの日の 言葉 と ことば 記憶 と きおく ひかり と くらがり とを 西の方角から くらい雲がひとかたまり 海に蓋をしようと流れてくる 結び目を湿らせ すべてを忘れてしまえ、と つないだ指と指は瞼の下に隠して わたくしたちは眠ろう 解くことだけは、しないで (その5) 2004年09月19日(日) 光が満ちるまでのあいだ 昔話でもしよう わたくしが一面に広がる土で 耳たぶも踵も 持ってはいなかった頃のことを 雨は降り 波紋は作られたが その大きさを測るすべを わたくしは持たなかった 何故ならわたくしは いちめんに広がる土の ひとくれでしか無かったのだから あなたが聞いた雨音を わたくしは知らない 雫の重さも、冷たさも 暗闇の意味も 光も あなたの足が踏みしめた その小さなくぼみ、 そこに私の種子が芽生える その刹那まで なぜ掌があり 五本の指は魚のように動き出すのか 知っているだろうか あなたの重み その凝縮されてゆく土の中で のぞみが生まれた その瞬間の秘密のことを 昔話をしよう、もう少しだけ ひかりが満ちる その時までに (その4) 2004年09月15日(水) 雨はいよいよ遠ざかり ひび割れは深くなっていった ぱちぱち と裂けてゆく音がする 光よ と誰かが叫び 続いて おめでとう 母の声がした おめでとう、お前が誕生したわ 確かにひび割れを押しのけ 生まれたのは私だった 土をこねて作られた肌は 水をもらえずに乾いていたけれど ぱちぱちと まだ音は続いている あれは拍手の音なのよ 母は言うが 私は殻の割れる音だと思う 誰かがまた 水を と叫べば 次の私が生まれてくるのだ (その3) 2004年09月10日(金) 親指は、ひとさし指とのあいだへ ひとさし指は、中指とのあいだへ 中指は、薬指とのあいだへ 薬指は、小指とのあいだへ そして小指を、赤子の足の裏に似た場所に 二つの掌の間に、私の魚が居る さて、どんな言葉で祈ろうか (泥の上に落ちた雫でも 波紋は真円なのですか?) (その2) 2004年09月09日(木) ど だ だ どぅ だぁ だぁ あ うちならす 手のひらを打ち鳴らす、音 湿った土を 千本の腕が叩く ぬかるみから 伸び上がりながら だ だ だ だん あしたの色 あさっての色 まだ見もせぬ色を 思い出そうとするな きのうも おとといも おととしの色も この静脈の内側に あるではないか ある ではない か 雨は 降りそうにない 雲がひらかれてしまえば 見えるだろう みえてしまう (ので) 踏みつけて、あるく 骨の折れるおとを聞きながら あるく足のしたで だ だ だ だん だん だん てのひらは鳴らされる 打ち鳴らされる その 音は ぬかるみの底の 明日のことを 思い出させようと 響いている 泥濘、あるいは土に生えるものについて(その1) 2004年09月05日(日) 雨でぬかるんだ大地からは 幾本もの腕が生えている 節くれた指 水はもう要らないから 光を、と 貴方の為に祈ろうと思う 幸いが、安らぎが、貴方の上に満ちるように 夜の裏側と雨雲の裏側だけが 貴方のそばにあるようにと 祈ろうと思う 私は、祈ろうと思う ただ祈ってみようと、そう思う せめて夜が明けるまでの間 (私の指が、組み合わされていますように) |
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