あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
 2004年07月04日(日)

僕の中から突然逃げていった  の文字は
次の日になっても戻ってこなかった

あれは

梅雨の終わりを目指して勢い良く伸びる
アカシアやクヌギの緑がうるさい峠道での事だった
きついヘアピンカーブを格好良く抜けようと
アクセルを踏み込んでハンドルを切って
不意に頭の中に浮かんだ

その歌を 歌おうとして

僕は歌った
大声で腹の底から声を出して
ららら、
君が隣にいないことだけが残念だと
登りから下りへと変わる峠の頂上で
ハイスピードで帰り着いたら、真っ先に君に届けに行こうと

誓ったんだ、あの時確かに

けれど  という文字は
僕の中から飛んでいってしまった
間違いない、あの時だよ
マタタビが花みたいな葉を茂らせる
三番目のカーブを曲がりながら
もういちど ららら と歌った瞬間
君が少し遠くなった気がした、その

ら ら ら
僕は歌える、けれど君に手渡すカードに
歌詞は書かれない
真っ白な紙を渡して、君を怒らせるべきか
それとも
耳元で歌ってみせて、

行ってしまった   という文字
僕は困っている、んだ
多分ね



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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe