2004年04月23日(金)
許すこと、とやらのために 僕は長く伸ばしていた尻尾を切ったのだった 成長したものを手放すという事は 切ないものなのだね それにしても、いや、随分と長く伸びたものだった 毎朝ためらいもなく髭を落とす僕が言うのも おかしな話なのだが 地を掃くためでなく 空にまるを描くためでもなく ただ ひこばえを飛び越すときにつるりと触れる その一瞬のために伸ばしていた尻尾は 切り落とされてしばらくの間 うんと唸って悩んでいたようだった 自由だ と僕が言うと 俺の自由などお前が走るその時にしかなかった そう言って一つ転がり、それきり動かなくなったのだった その後の事は知らない 多分 また髭が伸びてきて 僕はかみそりを手に取る 罪とやらもこのように 速やかに刈り取ることが出来るのならば 尻尾の事を思い出さずに済むのだろうに 冷たい水で顔を洗う 許すこと、を求める人のところへ 行かなければならないので ふたたび、その庭にて 2004年04月07日(水) うつろであるという。 空ろであると言う、いつから恐れるようになってしまったのだろう 紫色の花弁がゆるゆると開き その内側に。 香りばかりで花の見えぬ庭では 板塀がいくつもの雨を経て朽ちていた 残された木戸だけが 誰かが訪れることを知らせるために 二本の柱で大地に踏ん張っている しかし叩く手は 訪れないだろういや、訪れるときは 開ききった木蓮の内側には何も隠されていず 暖かな風がひとつ吹くだけのことだ うつろであるという 煙を追って空へといった あれは、貴女だったのだろうか ならば繋ぎ続けた掌の内側には 春という日差しを暖める火種も 白く染まるほどに太陽を熾す息吹も。 けれど、引いてはならないので 俯くこともせず仰ぐこともせず 睨みつけている うつろ、 また一つ風が吹き、雨が招かれて抜き足でやってくる くちてゆく庭、庭の色合いのその先には 落ちた花弁が茶色く滲んでゆく場所の、 熱はそこからやってくるのだろう 恐れながら、私は待ちつづけ、そして恐れて目を凝らしても 見えない、その内側には。 |
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