あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
 2003年05月31日(土)

そうね、やっぱり
歌いすぎれば花は枯れてしまうし、
魚だって、眠りたいときはあると思うの

……ママ、

走り過ぎたんだよね
追いつかれてしまわないように
夏と、夏よりも酷い春と
この庭には最初から
冬なんてなかったのに

ひまわりが開くのが怖い、だなんて
ママ、信じないわ、そんな言い訳




 きつね 2003年05月15日(木)

そして天は、歯軋りするほどに高くはなく
大地も
這うほどには低くなく
望むのならば、この、足は、


──神様

  なぜ私には尾があるのでしょう

  湿った土の上を這うだけの

  空など見えぬ虫ならば

虫ならば、この、足は。

跳ねぬでしょう地を蹴らぬでしょう

けれど
今日も空は青く、遮る夏草も私の上になく
風だけが背中を押すのです

望め、と。

ただ 望め、と。



 2003年05月08日(木)


靴 ぬげそうだけど
馬鹿みたい ぶかぶか
だって
貴方は呼んでる 手も握らないで

差し伸べて
 って
  居なくなったら
   あたし は
     
     消えないでしょ?

やっぱりぶかぶか の 靴
脱いだりはしない
つながない 
進むの 知らん振りで

走る、しか
 歩くかも
  追いついて
   そのまま前に
  
 呼んであげる
 今度は
 あたし が



 2003年05月06日(火)

まばたきをしよう、何度でも

  何度でも  
        娘よ

はじめての春を迎えて
お前はひたすらに目を見開く
春、すべての春が
御牧の上に還ってきたのだ

娘よ、まばたきをしよう
すべての美しいもの
すべての儚いものを
その眼の奥に焼き付けるために

せわしなく散る桜
木陰を照らす山吹
色濃い花桃
健やかな柳
連翹の黄金
うつくしいものは、かず限りなく
止まぬだろう、百も、千も、一万も

いつか丘を下り
海辺まで行く白い季節のように
お前もまた旅立つのだろう
川面を下り
渚のさざめきに誘われるままに

その日
広々とした大地の上でいつか
お前の瞼が閉じられる日に
ひとひらの春が孵化するように
娘よ
まばたきをしよう

百でも千でも限りなく





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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe