...ねね

 

 全てフィクションです

【DRESS】 - 2003年10月28日(火)

仲間と入ったその店は内部が意外に明るく設定してあり
バーのようなイメージとはまた違った感じがした。
中央のステージを見て同僚が「ストリップ小屋みたいだな」と言った。
そちらへ目を向けると、ちょうど太った女の人(男の人?)がマイクに向かって
なにやらショーを始める、といったことを喋り始めた。
すると突然けたたましくロックのような音楽が鳴り響き、
色とりどりのドレスを着た女の人達が数人出てきて踊り出した。
さっきの太った人とは違い、みんな綺麗で本当の女性のようだ。
同僚達は口々に囃し立てている。

僕がステージに見とれていると、隣にいつの間にか女性が座っていた。
「楽しんでもらえてるかしら」
振り向くと、無理に女性らしい声を出してはいるもののとても綺麗な人がいた。
喋らずにいればきっと誰も男だとは気付かない。
香水のいい匂いがしていた。

同僚達は女性達をからかって顰蹙を買っている。
それを見て僕が少し嫌な顔をした。そして目を背けずにはいられなかった。
なぜなら女性の格好をしたいという願望がある僕の事も馬鹿にされた気持ちだったからだ。
すると女性は申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさいね。アナタこういう所は嫌い?」
どうやら僕がオカマバーだとは知らずに付いて来て、嫌悪していると思ったようだ。
「ち、違います。僕は・・・その、あいつらの言動が酷過ぎると思って」
ところが彼女は「そんなのとっくに慣れたわよ」と言って、ふふっと笑った。


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【DRESS】 - 2003年10月14日(火)

会社に入ってから何度か飲み会があった。
いつも上司の行きつけのスナックに連れて行かれたり
カラオケや居酒屋などで飲んで騒いだりしていた。
ある時、僕を可愛がってくれている会社の先輩が

「おい、オカマバーって行ってみたくないか?」

と言い出した。
今でこそニューハーフは一つのカタチとして認められつつあるが
当時としては、言葉は悪いが世間の好奇心の対象でしかなかった、
という印象が強かった気がする。
ゲイに対しても理解が無かったと言っても過言じゃなかった程だ。
そして、そう言って僕を誘った彼も
ちょっとした好奇心から「行ってみたくないか?」と言い出したのだ。
話の種に、とも彼は言った。

だけど僕は違った意味で強く好奇心を持った。
オカマバーという所は、単に女装をしたいだけの僕とは
全く種類が違うわけだが、女性の格好をした男性が大勢いる場所だ。
女装がしたくても出来ないで葛藤していた僕には
「何かがあるんじゃないか。何かが見つかるんじゃないか」
そう思ったのだ。
何かって何だと聞かれれば、何だろうと思う。
とにかく、僕は興味を引かれて彼の提案に賛成した。



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【DRESS】 - 2003年10月09日(木)

就職してしばらくは下宿にそのまま住んでいたが
仕事に慣れ、少し貯金が出来たところで自分の部屋を借りた。
両親には実家に戻ってくるように言われたが
一人で生活する気楽さが身についてしまっていたし
(と言っても食事に関しては上手くやる自信は無かったが)
ここらでちょっと自立した暮らしをしてみたかった。

「女子高生が二人もいちゃウルサクて疲れちゃうよー」

そう言って笑うと、居間にいた妹たちに母がそう伝え
「なによーもー失礼しちゃう」
と電話の後ろから妹達のブーイングが飛んできた。

女装は・・・
家を出て妹たちと離れてしまってからは全くだった。
なにせ僕は自分で洋服を用意する勇気すらなかったから。
どんな顔をして女物の服を買いに行けばいいのか分からない。
それに今の僕が果たして女物の華奢な服を着られるかどうか
それも自信が無かった。
どう考えても中学生の頃に比べれば格段に背は伸びているし
体格だって良くなっている。
ウエストだって、はっきり測ってはいないが
通勤スーツのサイズを考えれば普通サイズの女性物が入るわけがないのだ。

なによりも、すっかり男らしくなってしまった僕が綺麗な服を着ても
誰も「可愛い、綺麗」となど言ってくれないんじゃないか、
僕はそれが一番怖かったのかもしれない。



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【DRESS】 - 2003年10月06日(月)

兼松たちの様な奴らと離れて暮らすことになり
僕は以前の静かな生活を取り戻すことが出来た。
ただ違うのは、家族とも離れて暮らさざるを得なかった事。
寂しいといえば確かに寂しかったかもしれない。
が、完全に独立した生活でもなく食事の時は母屋で
オバサンと顔を合わせる事になるし、
食事の出る下宿であったにもかかわらず
母はしょっちゅう自分が作ったオカズを僕に運んだ。
そして妹達も時々は僕の部屋を訪ねてきてくれたのだ。
お陰で僕はそれ程孤独を感じずに済んでいた。

無事に中学を卒業し、下宿している地域から公立高校を受験した。
札幌は学区が2つに分かれているのだが、
実家がある所とは学区が違うため、以前の知り合いは全くいなかった。
そういうわけで、僕は心機一転新しい生活を始めることが出来た。

学校は少し郊外にあって、目の前に大きな貸し畑があり、
春には牛の糞の臭いがしていた。
普段は顔をしかめながら急いで帰りのバスに乗ればよかったが
マラソン大会の時などは砂利の上を走りながら
思いっきりその臭いを嗅がなくてはならない事は苦痛だった。
そんな田舎の学校だったが、下宿の最寄の駅は
当時は現在ほどではなかったにせよ副都心と名がつくほど大きく
学校帰りには大型スーパーと若者向けの専門店街の群れの中に立ち寄り
それなりに遊びには不自由はしなかった。

高校生というのは中学生に比べれば少しは大人であり
中学の時の様におかしな連中がからんで来る事もないわけで
そんなこんなで特に大きな問題もなく
無事に就職の内定も貰い、卒業した。



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