...ねね

 

 全てフィクションです

【DRESS】 - 2003年11月12日(水)

自分の口をついて出てきた言葉にはっとした。
思わず自分の言葉を遮る様に口に持っていった手を見て
彼女も気まずい顔をして目を逸らした。
そうした所に丁度同僚たちがこちらの席へ戻ってきたので
僕たちはまた何事も無かった様に酒を飲んだ。

「おいおいおい!お前オカマとなんかいちゃついてんなよ!」
「まっ失礼ね!オカマに向かって!」
変わらず騒いでいる同僚たちとその相手をする彼女。
彼らはすっかり僕の事など眼中に無い様子だ。
それを幸いに、僕はあの女装の男を見やった。

数年前までは僕も同じ様にああやってスカートをはいた。
女の子の様に横に流れる髪をブローした。
薄いピンクのリップクリームを塗った。
華奢だった足に纏わりついていたスカートの裏地。

その男の姿を眺めていると、その昔の思い出がどんどん溢れて来た。
今は瑤子も由希も高校生で
きっと今流行の可愛い服を着ているに違いない。
一緒に住んでいた頃なら僕も同じくその服に袖を通せた。
だけど今はどうだ。
着たい服も着られないまま、我慢しているだけだ。

僕は、あの男に羨望のまなざしを送っていた。


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【DRESS】 - 2003年11月06日(木)

しばらく僕達は話をしていた。
同僚などそっちのけで真剣に頷きながら聞く僕に
彼女は自分の生い立ちをかいつまんで僕に話した。
どうしても男性しか好きになれなかった事、女として生きていく決心をした時の事
親に泣いてすがられた事、初めて女性用下着を買いに行った時の事など
冗談も交えて時には笑い、時に遠い目をしながら話してくれた。
たまに自分にリンクする内容もあり、僕はますます話にのめり込んだ。

「ほらあそこ、見てみて」
彼女の指差す先にいたのは、女物のスーツを着た人だった。
女装はしているが化粧も無く髪もそのままで普通の男性のようだ。
「あの人も・・・その、オカマの方なんですか?」
失礼な事を言いやしないかと言葉を選んで尋ねた。
いいえ、と彼女は首を振った。

そのスーツの男性は、彼女の昔からの友達だそうだ。
学生の頃、思い余って彼女は親友の彼に自分のことを打ち明けた。
すると彼も自分のことを彼女に打ち明けたという。
彼は、オカマではなく女装マニアだった。

「僕と同じだ」

思わず僕は呟いていた。


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